血液からの遺伝子情報を機械学習により分析することで神経変性疾患の進行予測が可能に:アルツハイマー病 とハンチントン病を対象として、他の疾患への応用も視野

課題

アルツハイマー 病やハンチントン病など神経変性による疾患の早期検出と進行予測は重要な医学的課題です。遺伝子発現と神経変性の間には関係があると示唆されていましたが、進行を予測することはできていませんでした。

神経変性疾患の検出と進行・悪化予測は、治療の早期開始の観点から求められています。

解決方法

カナダのマギル大学の研究者らは、血液から採取できる遺伝子発現情報を用いて、アルツハイマー 病とハンチントン病を対象とした疾患の進行予測手法を開発しました。この成果は、2020年1月28日、Brain誌に掲載されました。

この研究では、全1969人の被検体の脳と遺伝子情報などをデータセットとして機械学習を行いました。このデータセットはROSMAP Study(489人)、HBTRC dataset(736人)、ADNI dataset(744人)の3つのデータセットから構成され、ROSMAP StudyとHBTRC datasetからは被験者の神経病理学的評価と遺伝(RNA)プロファイルの長期にわたる経時変化(縦断研究)データ、ADNI datasetからは血液サンプルの経時変化(縦断研究)データが得られました。また、この全ての被検体の脳からは、アルツハイマーと関係が深いとされるアミロイドベータをみるためのアミロイドPET、神経原線維変化をみるためのtau PET、脳構造をみるためのMRIデータの内どれかの結果が得られています。

この研究の中では、Contrastive Trajectories Inference (cTI)と呼ばれる教師なし学習手法が開発され、遺伝情報が神経変性に伴ってどのように進行するかを可視化することができます(下図のd)。

https://www.biorxiv.org/content/10.1101/548974v1

また、この手法は神経変性を非常に良く予測できました。さらに、血液サンプルに対してこの手法を適用した結果、記憶力の悪化や将来の悪化率(declining rate)に関する全体のばらつきの内97%を予測することができました。

どうなったか

研究グループは、認知症の進行を血液検査という低侵襲で予測できる可能性を示し、医学的に力強いツールになるだろうとしています。今後は、これ以外の神経変性による神経疾患にも応用したいということです。

まとめ

血液検査のような簡便な検査と機械学習を組み合わせ得ることにより、ガンなどの疾患を推定できる可能性が示されていますが、認知症を含む神経変性を遺伝子発現の観点から解析した研究として、非常に興味深いものです。

今後は、縦断研究により得られた大量の大規模次元のデータセットを用いた研究が増加するのではないかと考えられます。この場合には、深層学習のようなモデルでは計算に限界があるため、大規模多次元データセットに適用可能な手法が、過去の研究から掘り起こされたり、新たに開発されるようになるのではないでしょうか?

参考資料

(森裕紀)