良好な精子をAIで判別:不妊治療において顕微授精の負荷軽減と均質化を目指す

課題
近年、晩婚化、晩産化を背景に不妊に悩む人が増加し、体外受精などのニーズが高まっています。なかでも不妊治療のひとつである顕微鏡下で行う顕微授精(※)の実施件数は増加し、胚培養士の負担軽減が課題となっています。
精子1個を卵子に注入する顕微授精では、良質な精子を採用することが受精率を高めるためのポイントです。しかし判別における明確な基準はなく、作業を実施する胚培養士の知識と経験に依存しています。卵子へのストレスを最小限に抑えるためには、たくさんの精子から最適と思われる1個を迅速に判別して作業する必要があり、各医療機関における胚培養士間の作業の均質化もまた大きな課題です。
解決方法
オリンパス株式会社は、これらの課題を解決すべく、東京慈恵会医科大学産婦人科講座と、エルピクセル株式会社と共同研究を進めています。
今回のプレスリリースでは、1066個の精子画像を学習させたことで、AIが動画内の精子を高精度で認識し、その運動性能算出に成功したと発表されました。良好な精子は直進性があり、速度は速い(黄緑色)のに対して、それに対して、不良な精子は直進性がなく、速度も遅くなります(茶色)。

胚培養士が顕微授精作業する際、リアルタイムで運動性能を算出するため、これによって良好精子の判別をアシストできることができます。本内容は2019年11月7日、8日に開催された第64回日本生殖医学会学術講演会にて、東京慈恵会医科大学より演題名「顕微授精における機械学習による良好精子選別支援の実現性検討」として口頭発表されました。
どうなったか
今後は、精子の形態を評価するAIの開発に移行し、精子の頭部、頸部の形態を学習させます。そして2020年12月までに精子判別補助AIの開発を進め、これを搭載した顕微鏡の確立を目指すようです。
まとめ
不妊治療においては、胚培養士の負担だけでなく、費用が高額であり、不妊に悩む人が気軽に実施できませねん。こうしたAI技術が浸透すれば、治療費削減につながる期待が持てるでしょう。
※顕微授精:倒立顕微鏡下で卵子に精子を注入して受精させる方法。受精障害がある場合や、乏精子症、精子無力症などの男性不妊要因で特に有効とされており、ICSI(Intra Cytoplasmic Sperm Injection:卵細胞質内精子注入法)とも呼ばれている。
参考資料
- 東京慈恵会医科大学との顕微授精に関する共同研究で成果 精子の運動性を高精度に算出するAIを開発 [PR TIMES]
- 東京慈恵会医科大学と顕微授精に関する共同研究を開始 精子判別補助AIの開発により顕微授精作業の負荷軽減と均質化を目指す 生殖補助医療胚培養士の良好精子の判別作業をアシスト [オリンパス株式会社]
(蒲生由紀子)