機械学習により衛星画像から貧困と富を可視化するスタンフォード大学の研究

課題

政府による資源配分、疾病管理、自然災害への対応、そして人間の生活の研究には、正確で最新かつ詳細な人口指標が不可欠です。2015年には国連が「持続可能な開発目標」を定めましたが、これらの目的を達成するのにも、正確な人口統計が重要になってきます。しかし、何百万人もの人々が国の国勢調査に参加していない現状があります。そんな中、衛星画像が、国勢調査の費用と時間をかけずに人口地図を作成するのに十分な情報を提供するツールとして注目されました。研究者たちは、衛星画像のパターンを識別することで、各国の指導者や国際機関が貧困にあえぐ地域を支援できるようにしたいと考えています。

解決方法

スタンフォード大学のコンピューター科学者ステファノ・アーモン氏らの研究チームは、世界中の貧しいコミュニティを救うべく研究をしています。研究チームは、人工衛星画像からコミュニティレベルで貧困と富を正確に推測するために、従来の人口統計の手法に加え、機械学習モデルを利用しました。この成果は、人工知能、倫理、社会に関する国際会議(AIES 2019)論文が発表されました。

たとえばランダムフォレスト法は、ベトナムで解像度100mで人口を推定するのに使われています。また、人口調査では、衛星画像から直接人口を推定するよう訓練されたCNNモデルもあります。アーモン氏のモデルでは、夜間の光の強さや、道路、高層ビル、スイミングプールなどの特徴を利用して、家庭が電気、水道、衛生設備を利用できるかどうかを正確に予測しました。

https://arxiv.org/abs/1905.02196

夜間の光の強度を示す衛星画像は、貧困と富の大まかな指標となります。より正確な測定値を得るために、アーモン氏らは機械学習を使って、夜間の光の強さから得られた手がかりと、昼間の画像から得られたデータを組み合わせました。まず、調査データが豊富な地域の画像を分析し、富と関連する視覚的な手がかりを特定することから始め、最終的には富の変化を村のレベルまでマッピングしています。

どうなったか

本研究では、とくに農村地域において、衛星画像から人口マッピングを可能にするような正確な人口推定を生成するという目標を概ね達成したと著者は述べています。比較的粗いスケール(地区または準地区レベルなど)での人口予測は正確ですが、衛星画像からの村レベルでの直接予測はまだまだ未完成な部分も多いようです。しかし、著者らの村レベルの予測はすでにLandScanのような伝統的な人口統計の推定方法よりかなり良い性能を有しており、より高い解像度の画像が利用可能であれば、改善の余地があります。

まとめ

衛星画像と機械学習を組み合わせることで、現状の方法では見ることができなかた人々のより詳細な生活を見ることができるようになるでしょう。著者は他にも、畑はどれくらい食料を生産できるのか、下水道の配管といった一見不可能なものを、機械学習と衛星画像を組み合わせて予測しています。詳しい研究はアーモン氏のホームページに載っています。

参考資料

(蒲生由紀子・森裕紀)