ケンブリッジ大学・飯田文也准教授インタビュー(後編)「イギリスのAI事情」

Marvinでは、このたびイギリス・ケンブリッジ大学工学部でバイオインスパイアード(生物に触発された・生物規範型)ロボティクス研究室を主宰する飯田史也准教授にインタビューを行いました。今回はその後編です。

前編は、飯田准教授が取り組んでいる農業AI研究について伺いました。後編はイギリスにおけるAIの取り組み、大学と産業界の関係、イギリスの学生の就職事情ついてお聞きします。

飯田准教授が取り組んでいる農業AI研究について伺いました。後編はイギリスにおけるAIの取り組み、大学と産業界の関係、イギリスの学生の就職事情ついてお聞きします。

イギリスにおけるAIの取り組み

−−ブレクジットが話題となっていますが、農業AIのみならずAI業界とも関係はあるでしょうか?民間企業や政府の取り組みとして、イギリスならではの特色のある事業や、雰囲気はあるでしょうか?

AIは国の8つのプロジェクトとのひとつとして挙げられていて、ものすごい予算もついて、人材的な配置もすごく積極的に行っています。国を挙げた研究所も数年前に設立され、その研究所を中心に色々なところへ動いています。

8つのプロジェクト

・ビッグデータとエネルギー効率の高いコンピューティング
・衛星や宇宙の商業利用
・ロボット工学と自律システム
・合成生物学
・再生医療
・農業科学
・先端材料・ナノテクノロジー
・エネルギーとその貯蔵

https://www.gov.uk/government/publications/eight-great-technologies-infographics

AIを使っている大企業、グーグル、マイクロソフト、アマゾンなどそういったところがイギリスにたくさん本拠地を持っているので、そういう意味では全方向を使っているといっても良いかもしれません。

−−その意味では、AIへの取り組みは進んでいるのでしょうか?それとも追いつけ追い越せという感じでしょうか?

AIの取り組みに関してはアメリカと競うくらい頑張っていて、とくに基礎技術・理論に関してはかなり進んでいるほうだと思います。イギリス自体は国の大きさが日本の半分くらいしかないので、できることは限られていますが、理論の分野では最先端だと認識しています。

大学と産業界

−−大学と産業界は協力関係が強いですか?

大学と産業界の協力は非常に多いと思います。私自身は日本とスイスとアメリカと色々な国を見てきましたが、その中でも産学連携の話は非常にうまくいっています。

たとえば国から出てくる研究予算の比率だけをとっても、産業界との連携に向けた研究予算のほうが基礎研究などと比べてもとても割合が大きいので、その点は評価できると思います。

基礎研究と応用研究

https://robotics.sciencemag.org/content/3/25/eaau3098

−−飯田さんは、人間の骨格と腱の構造を硬さの異なる素材を組み合わせた3Dプリント技術で実現するようなソフトロボティクスの学術研究や、ロボットの形態に知能が(一部が)宿るとするMorphological Computation(形態学的計算)の提唱など、ロボット知能の哲学的な側面についても発表してこられました。産業界との協力でこれらの基礎研究の成果が生かされたことがあるでしょうか?

やはり大学で研究をすることに対してそれなりに考えを持っていなくてはいけないのですが、大学でしかできない研究、企業でしかできない研究をきちんと考える必要があると思っています。

大学の場合はある程度長いスパンで考えている側面があるので、スペクトラムの一番端に根本的な基礎研究を常に行わなければなりません。一方、企業にはできないけれど、しなければならない応用研究もあります。

農業ロボットの研究もそこにくると思いますが、どうやって横断的に研究を進めるかは難しい反面、やはり大学の研究者として行わないといけないと思っています。

それでMorphological Computationの話ですが、これはもちろん研究をする上でのバックボーン的な存在で、企業の人にこんなことを言ってもあまりわかってもらえないけれども、研究者として研究をする上でどこに軸足を持っていくかというところを考える上では、非常に重要なのかなと思います。

Morphological Computationはコンピュータのチップを作るよりは概念や考え方の枠組みなので、そういう観点から考えるべきだと思っています。これはそのまま使って何かができるなどそういう類の研究ではないので、色んな意味で役に立っているとは思いますが、具体的にどう役に立っているかは難しいですね。

イギリスの学生の就職事情

−−最近、日本の大企業も技術者の報酬を引き上げる取り組みが盛んになっていますが、イギリスの学生の就職状況はいかがでしょうか?人材の引き抜きや獲得競争は激しいのでしょうか?情報系やロボット系の博士号を持っているかは就職に有利に働くでしょうか?それとも、敬遠される場合もあるのでしょうか?

イギリス全般の話をするのは難しくて、おそらく地域によっても大学によっても違うので、私が言えるケンブリッジ大学においては、非常に学生の質が高く、就職に困った話はあまり聞きません。優秀な人材はどこからでもオファーが来るのでそこは気にしていない一方、博士号の話はなかなか難しい問題です。ケンブリッジの学部生がそのまま博士に行くかというのは、修士までは行くとしても、たぶんほとんど行かないと思います。

その理由のひとつは、学部卒で社会に出たほうが給料が高いというのが確実にある話で、それと同時に、役に立つ仕事をしたいという考え方を持った人がたくさんいるので、博士を取らずに社会に出ていく人たちが多いです。

しかし人材の獲得競争は本当に激しくて、企業からも「どうやったら学生さんを雇えますか?」という話になることもよくあります。たぶんコンピュータサイエンスのほうでは本当に人材が足りないので、すごい競争になっていると思います。

給料は他の分野に比べて高いですが、世界的に見てアメリカに比べたらかなり安いので、本当に稼ぐことに興味がある人はアメリカに行きますね。
博士課程は、一応自立できる給料はもらえています。

−−なるほど、それと比べたら就職する人のほうが多いということですね。ありがとうございました。

飯田史也

https://mi.eng.cam.ac.uk/Main/FI224
  • 1999年 東京理科大学大学院工学研究科修士課程修了
  • 2004年 イエーナ大学研究員( – 2005年)
  • 2006年 チューリッヒ大学理学部博士課程修了、博士(理学)
  • 2006年 マサチューセッツ工科大学ポスドク研究員( – 2009年)[5]
  • 2009年
    • チューリッヒ工科大学准教授( – 2014年)[6]
    • チューリッヒ工科大学バイオロボティクス研究室室長
  • 2014年 ケンブリッジ大学工学部講師
  • 2019年 ケンブリッジ大学工学部准教授( 現職 )

参考資料

(インタビュイー:飯田史也、インタビュアー:森裕紀、記事:蒲生由紀子)