AIで価格が決まる:全席ダイナミックプライジングの音楽イベント

課題

コンサートツアーにおいては、同じ歌手でも一瞬でコンサートチケットが完売したり、別のコンサートツアーでは空席が目立ったりするという不安定さがありました。また、人気アーティストのコンサートチケットの転売が目立っているなか、転売を阻止するためにアーティスト側で対処法が求められていました。また、人手によるチケットの価格設定作業も煩雑でした。

解決方法

11月21日から24日の4日間、幕張メッセイベントホールで誕生する新しい音楽イベント『Yahoo!チケット EXPERIENCE VOL.1 』において、需要と供給の状況に応じて価格が変動するダイナミックプライシングを導入することになりました。ダイナミックプライシングとは、市場の需要に応じて価格を変える方法で、さらに最近ではAIを用いたダイナミックプライシングが導入され始めています。

その需要の高まりとともに、2018年に三井物産株式会社とヤフー株式会社が提携して「ダイナミックプラス株式会社」が設立されましたが、ダイナミックプライシングを用いてチケット全席を販売する音楽イベントは、今回が日本初です。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000048546.html

ダイナミックプライシングは、価格によって変化すると仮定する「需要」と「価格」の掛け算、つまり総売上を最大化するように価格をリアルタイムに変更する技術です。例えば、ある商品を高価格に設定した場合、一回の販売あたりの売り上げは増えますが需要は減ってしまいます。逆に低価格にすると買いたい人が増えますが、価格を一定以下にしたとしても元々その商品に興味を持つ人が限られているため需要の増加にも限界があります。このバランスを考えた上で最適な価格にリアルタイムに修正するのがダイナミックプライシングです。

古典的には、スーパーなどでの惣菜を閉店間際に値下げするのもダイナミックプライシングですが、インターネット上でリアルタイムに取引情報が得られるようになった現代では、強化学習やベイズモデルを用いた数理的な手法で利益の最大化を図ります。

ダイナミックプラス社のアルゴリズムは、アメリカのNeustar社で開発されたものをベースに作られています。これまでアメリカで累計8千万以上のチケットの推奨価格を算出した実績に加え、日本の需要変化や興業進行に応じてサービスを提供しています。

どうなったか

ダイナミックプライシングは販売実績や在庫状況などの情報、アーティストに関する統計データをAIが分析して、価格を算出します。Yahoo!チケット EXPERIENCEでは1席ごとに価格が変わるようです。価格帯を設定し、座席図から見たい席を選択すれば、その席が今いくらなのかがわかります。

まとめ

ダイナミックプライシングは、日本のプロ野球でも2017年度に東北楽天ゴールデンイーグルスが導入し、福岡ソフトバンクホークス、東京ヤクルトスワローズでも実証実験が実施されました。続いて2018年度に横浜DeNAベイスターズも価格変動制のチケット販売を開始し、2019年度からはオリックスバファローズでも試験的な販売が始まっています。

しかし、チケット収益性が改善するなど多くのメリットがある一方、6万円程度であったチケットが3か月後には10万円を超えるケースなど戸惑いの声もあります。ダイナミックプライジングは導入しないと決めているアーティストもいるようです。消費者に不安を残さないために、日本でのダイナミックプライジングの導入は慎重に進められていきそうです。

参考資料

(蒲生由紀子・森裕紀)