ディープラーニングを用いて降水量を1時間単位で予測できる手法を開発。今後は10分単位でも可能に

課題
近年の天気予報は、細かなメッシュで区切った地域の細かく区切った時刻に関する空気や水分の物理的な過程をシミュレーションすることで精度を高めてきました。このような物理シミュレーションによる降雨予測は詳細さを増せば精度が高まりますが、スーパーコンピュータを用いた大規模な高速・並列計算の処理が必要で高価になっています。
物理過程を適切に模擬することは科学的には正しい方法ですが、降雨など特定の状態を予測したい場合には詳細な物理過程の理解は必要なく、計算負荷を重くする要因になっていました。必要な指標を必要最低限の計算で求めることは、予測の詳細化に向けての課題になっています。
解決方法
一般財団法人日本気象協会は、今までは20キロ四方の範囲の降水量を3時間単位で予測していたが、ディープラーニングの技術を活用することで、5キロ四方の範囲を1時間単位で予測できるようになる手法を開発しました。

本手法は6月12日、13日に東京大学農学部弥生講堂にて開催された「2019年度河川技術に関するシンポジウム」で発表されました。全球気候モデルよりも解像度の高い領域モデルを用いて、特定の領域に限ってデータの詳細化を行うことをダウンスケールといいます。ダウンスケールには、全天球シミュレーションで得られた結果を制約として物理的な過程を詳細化して予測する力学的ダウンスケールと着目する地域のデータに基づいて物理過程を考慮しないモデルを統計学習により構築する方法を統計的ダウンスケールの二種類があります。提案された手法は、統計的ダウンスケールの手法で、「時間・空間」の双方を考慮したモデルになっています。これまで、「空間」方向へのダウンスケーリング手法は存在しましたが、空間と時間の双方向を対象とするモデルはありませんでした。
この時空間方向ダウンスケーリングのモデルには、畳み込みニューラルネットワークが使用されています。一般的な画像認識に用いられている畳み込みニューラルネットワーク(CNN: Convolutional Neural Network)では2次元の局所的な領域の関係性に基づいた処理が行われますが、今回の提案では空間に加えて時間方向にもダウンスケーリングするため、3次元のCNNを用いているのが特徴です。
3次元CNNはこれまで2次元のビデオの解析などで使用されていました。今回は地域の情報を2次元の画像とみなして、時間方向に繋げる「金太郎飴」のような構造を作ります。この金太郎飴の構造に関して着目する領域の3次元的な局所的な情報からその領域の予測を行います。
どうなったか
本手法ではディープラーニングを利用し、一般的な計算機を使ったダウンスケーリングを行います。これにより、詳細な物理過程に関する膨大な計算が必要なく、スーパーコンピューターのような計算機資源を使用しなくても、運用が可能となります。また、雨域の移動や降水量の増減をより詳しく予測することができるようになります。
今後は10分単位で予測できるようになるほか、ダムの運用や洪水予測の精度向上に応用することで、治水・防災への取り組みに役立てられるようです。風の数値予測など、他の気象要素にも適用していく予定だと日本気象協会は述べています。
まとめ
ディープラーニング技術は、データがありさえすればその関係性を高精度に学習することができます。その反面、物理学的に適切な制約のないモデルとなってしまい、突拍子もない結果を返して「しれっとしている」ことも少なくありません。物理過程を考慮したモデルは無くなりませんが、計算資源にも限りがありますし、近年はグリーンAIと呼ばれる計算負荷の少ない手法の開発も盛んになっています。計算負荷を掛けてでも適切な結果を返す手法と、ニーズに見合った適切な粒度と精度を持つ手法の双方が補い合うのが理想の姿になるでしょう。
参考資料
- 日本気象協会、AIにより 降雨予測の「時空間方向」へのダウンスケーリング手法を開発 ~今後、ダムの効率的な運用や洪水予測の精度向上への活用を検討~ [日本気象協会]
- ディープラーニングで降水量を1時間単位で予測 日本気象協会が開発 [IT Media]
- エクサウィザーズと日本気象協会が人工知能の共同開発を開始:気象と関連する社会課題解決を目指す [Marvin.news]
(蒲生由紀子・森裕紀)