変装した不審者も見破る高精度なAIセキュリティシステム「FacePRO」:デンマークのサッカー競技場に導入

課題
様々なイベントやスタジアムでの試合などでは、入場者の中に迷惑行為を行う人物がいないかを確かめるために、セキュリティスタッフを配置します。
従来、不審者を見分ける際には、過去に問題行動を起こした人物をリスト化してスタッフ間で共有し、対象の人物が紛れ込んでいないかを目視で確認していました。ですが、人力によるチェックでは見落としが発生しやすく、またスタッフの業務負担が増加するといった課題があります。
解決策
現在では、不審人物をより高精度で見分けるためにAI(人工知能)を活用したセキュリティシステムの導入が進んでいます。デンマークのサッカーチームであるブレンビーIFは、同チームのスタジアムにAI(人工知能)を活用した顔認識システムを導入し、スタジアムに入場しようとする要注意人物を自動かつ高精度で認識します。
本システムを開発したのはパナソニックで、同社が開発した監視カメラとディープラーニング技術を融合した顔認証システム「FacePRO」を使用しています。
同スタジアムは1試合につき平均で約1万4,000人もの来場者があり、要注意人物リストに登録されている人物は約100人います。人間のみでこれらの人物を判別するのは極めて困難です。
ですが、FacePROの顔認証技術では、肉眼では判別が困難な左右45度の横向きの顔や、照明の明暗が強い屋外、またサングラスやマスクで顔を隠している場合などでも、リスト内の人物との顔認証を正確に行います。そしてシステムが対象人物を検出した場合、セキュリティスタッフに自動的にメッセージが送られ、その人物の入場を阻止するという仕組みです。
FacePROの顔照合性能は極めて高く、パナソニックは、アメリカ国立標準技術研究所(NIST)が公開している、映像セキュリティ市場向けに様々な条件を網羅したベンチマークデータセットにおいて、世界最高レベルの顔照合性能を達成しているとしています。
また、来場者の顔照合の際に問題になりがちなのが個人情報の保護ですが、FacePROではリスト内に含まれている人物以外のイメージやデータは保存しない仕組みになっています。この他、リストのデータはブレンビーIFが運営するサーバー内のみに保存され、同サーバーはインターネットなどの外部ネットワークに接続していないため、情報漏洩を防ぎます。
どうなったか
顔認証技術を用いたセキュリティシステムの導入によって、不審人物の判別をより正確、かつ高精度で実現します。これによってセキュリティスタッフの負担が軽減されて、その余力をファンの入場サポートなどの、よりサービス性の高い業務に振り分けることが可能になります。
この他、入場ゲートでのチェックにかかる時間が短縮されるため、ファンのスタジアム入場がよりスムーズ・快適化が見込まれます。これにより、同スタジアムで開催されるダービー・マッチなどの注目度の高いサッカー試合において、入場者がより安全に試合を楽しめるようになると期待されます。
まとめ
大人数が行き交うスタジアムなどでのセキュリティチェックでは、不審者や要注意人物が紛れ込まないように、従来は人間のスタッフを配置して監視を行っていました。ですが、人間によるチェックでは不審人物を正確に見分けるのは困難で、特に不審者が変装などをしている場合であれば猶更です。
このため、現在ではAI(人工知能)と監視カメラを用いたセキュリティシステムの導入が進んでおり、顔認識技術を用いて高精度で人物の顔認証が行えます。パナソニックが開発したFacePROでは、横向きの顔や変装した状態、もしくは10年以上経年した場合などでも、要注意人物リストと一致した人物を高精度で判別できます。
顔認識技術は様々な目的で活用されており、本稿で紹介したセキュリティ目的をはじめ、オフィスの入退室チェック、またiPhone X以降では顔認証を利用したロック解除機能が搭載されるなど、実用化が進んでいます。2020年に開催される東京五輪においても、こうした顔認識技術を用いたセキュリティシステムの導入が進みそうです。
参考資料