理研が「卵巣がんの術前予測アルゴリズム」を開発 がんの術前診断貢献へ期待

課題

卵巣がんは、さまざまな臨床病期(早期がんであるステージⅠ、Ⅱ および進行がんであるステージⅢ、Ⅳ)とともに、いくつかの組織的な分類(高異型度漿液性がん、低異型度漿液性がん、類内膜がん、粘液性がん、明細胞腺がん)に分けることができます。 昨今の標的治療の開発、およびこの疾患の分子メカニズムに関する知識の向上を考えると、現在の標準治療法にも改善の余地があるようです。

PARP阻害薬抗体医薬などの有効な抗がん剤もある中で、 現在、初期治療の前に進行期や組織型を予測できないことが、臨床現場における大きな制限となっています。患者ごとに適切な治療戦略を策定することが、現場では強く望まれているにもかかわらず、今までは、予後と進行期や組織型との関連は統計的な手法によって示されてきたため、こうした因子について知るためには手術や生検を行う必要があり、術前の情報のみで治療戦略を立てることができませんでした。

解決方法

理化学研究所(理研)科技ハブ産連本部健康医療データAI予測推論開発ユニットの川上英良ユニットリーダーら共同研究チームはまず、教師あり機械学習であるランダムフォレスト法を用いて、診断時の年齢および術前血液検査データ32項目のデータに基づいて、悪性腫瘍と良性腫瘍を予測しました。

どうなったか

解析には、東京慈恵会医科大学産婦人科の2010~2017年の334名の悪性卵巣腫瘍患者と101名の良性卵巣腫瘍患者のデータを使用しました。その結果、パラメタータを様々に変化させてモデルの特性を変化させて予測性能の指標となるROC曲線感度と特異度の二軸からなるグラフ。感度と特異度は通常トレードオフの関係にある)のAUC(Area Under Curve: 機械学習のモデルの良さの指標。ROC曲線の下の部分の面積の全体に対する割合で上限の1.0になる程良い)を測ったところ、従来の統計的手法である多変量ロジスティック回帰では0.897だったのに対し、ランダムフォレスト法では0.968と、前者の手法より精度が上がりました。

さらに、術前血液検査データに基づいて、がんの進行期や組織型などの予測も行いました。その結果、進行期は、AUC=0.760という比較的良い精度で予測することができ、すでに知られている腫瘍マーカーに加えて重要なマーカーもわかり、進行期と炎症との関連が示されました。組織型は、高異型度漿液性がんと粘液性がんの予測精度が比較的良く(AUC=0.785, 0.728)、高異型度漿液性がんはCA125CA19-9、粘液性がんはCEA[が予測のマーカーとなることが明らかになりました。

進行期予測において、AUC=0.760と悪くはない性能は出たものの、良性・悪性の鑑別に比べて精度が良くなかったため「早期卵巣がんと進行卵巣がんで術前血液検査のパターンが近い症例があるのではないか」という仮説を立て、サンプルの類似度を計算するために、教師なしランダムフォレスト法を用いて、教師なし機械学習を行うことになりました。

http://www.riken.jp/pr/press/2019/20190415_1/

教師なし機械学習の方法を、年齢および術前血液検査データ32項目に適用し、術前の血液検査のパターンが似た人を近くに、パターンが異なる人を遠くに配置するように多次元尺度法(MDS)を用いて二次元分布を描きました。すると、進行がんと良性腫瘍は異なる分布を示しましたが、早期がんは「良性腫瘍によく似た術前血液検査パターンを示す症例(クラスタ1)」と「進行がんによく似た術前血液検査パターンを示す症例(クラスタ2)」に分かれました。そして、クラスタ1では再発がほとんどなかったのに対して、クラスタ2では再発率と死亡率が高いという、予後との強い関連を示すことが分かりました。

この早期卵巣がんのクラスタは、すでに知られている進行期(ステージⅠ、Ⅱ)とは異なるもので、術前血液検査データという状態を見ることで見つかったまったく新しい分類でした。

まとめ

この研究で使用されたアプローチでは画像研究や治療前生検からの情報を考慮しなかったので、臨床行動と治療結果予測の正確さは限られています。しかし、術前の末梢血のRNAシーケンスなど、次世代シーケンス解析から得られた大規模なデータセットを使えば、予測性能が向上する可能性があります。実際に、卵巣がん患者の予後評価のためにこの術前の血液のサインをどのように利用できるか調査するには、独立したデータセットを使用したさらなる研究が必要です。将来的には、機械学習アルゴリズムを使用して術前の血液値の時系列で予測する必要があります。
研究者らは論文で、この研究により、AIに基づいたアルゴリズムが卵巣がん患者の診断と予後評価に重要な情報を提供する強力なツールであるかもしれないことが示せたとしています。

参考資料

(蒲生由紀子)