心臓の動きのパターンからどれだけ生きられるか分かる?:MRIから得られた心臓の3次元動画像を深層学習により解析し、心臓疾患を含む患者の生存期間を予測(Nature Machine Intelligence掲載論文)

課題

心臓疾患を持つ患者の重症度を予測することは医療の質をあげる上でも重要になります。もし、ある心臓の動きが良いのか悪いのかをその時点からの生存期間で測ることができれば、より客観的な医療に繋がるでしょう。

医学的な検査は古くから行われてきましたが、医療者の目視による判断や単一の指標の高低を基準とした方法が主流となっています。しかし、例えば心臓の詳細な動きを可能な限り全て使うような解析ができれば、検査の精度が上がる可能性がありますが、近年流行の研究方針である「詳細なデータをそのまま使用する」といっても様々な方法の可能性があり一筋縄ではいきません。精度が高く、新規の患者にも適用可能なシステムの開発は大きな課題です。

解決方法

英国インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究者達が、4Dsurvivalと命名されたモデルを開発しました。4Dsurvivalは、心臓の詳細な動きからその時点からの患者の生存期間を予測します。この手法では、まず、被験者間の心臓の形状の個人差を減らすために畳み込みニューラルネットワークを用いたモデルにより標準的な心臓に変換します。その後、自己復号化器(Autoencoder)と呼ばれるニューラルネットワークによりデータをより低次元の「潜在変数ベクトル」に圧縮します。この際には、潜在変数がより生存期間を表現するような制約を掛けるように構築されています。

自己復号化器は多次元の入力を一旦低次元の潜在変数と呼ばれるベクトルへ変換してから、もう一度入力を再現するように出力を再構成します。この際の入力と出力の誤差が小さいのであれば、潜在変数はデータに関する本質的な情報を持っていると考えることができます。さらに潜在変数を入力として、計測された日からの生存期間を出力とするようなネットワークを接続して予測を行います。

心臓の動きはMRIにより29ミリ秒毎に計測され、一旦標準的な心臓の形状に変換されます。得られた心臓の表面に関する動作をトラッキングすることで心臓全体の動きをとらえます。判別を行うためのデータは、この心臓の動作について202箇所をトラッキングした20フレーム分(約550ミリ秒)のデータであり、時刻1からのx,y,zの差分の19個並べ直して入力としています。つまり、入力の次元数は11,514次元(3 × 19 × 202 )となります。

Fig.6, Deep-learning cardiac motion analysis for human survival prediction

データはImperial College Healthcare病院を受診した患者から集められました。

どうなったか

4Dsurvivalモデルは他のベンチマークシステムや人間の予測より優位な差で生存期間の予測をすることができました。

以下の図のaに示されているのは、それぞれの心臓の動きから予測された生存年数(緑になるほど長い生存期間で、赤は一年以下)をモデルから得られた二次元の潜在空間の中でプロットしています。また、bでは心臓のどの部分の動きが生存期間の予測に役立っていたかが赤い色で示されています。

Fig. 3, Deep-learning cardiac motion analysis for human survival prediction

まとめ

今回は心臓の動きからその後の生存年数を予測する医療AIの研究を紹介しました。これまでの医学研究では、人間の医者がすでに扱っていた、扱いやすい指標に基づいて回帰分析などの単純な手法で予測を立てるなどの手法が多くありました。これに対して、この手法では、できるだけ詳細に心臓の運動を表現した上で、ニューラルネットワークの学習を行うことで予測力の向上に繋がっています。

とはいっても、心臓を対象としていることによる事前知識に基づいた前処理は必要となっており、医学的知識の重要性は変わらないと考えられます。医療現場や医学研究による知識と機械学習の知識の融合が鍵になるでしょう。

参考資料

(森裕紀)