野生ニホンザルの個体追跡:大阪大学と岐阜大学の研究グループがパーティクルフィルタとニューラルネットワークを使って実現

課題

動物行動学研究において個体を追跡して、その振る舞いを観察することは研究そのものと言っても良いくらい重要です。さらに、社会的な動物であれば複数の個体を追跡することも必要なため、人の目で観察を続けることは限界があります。

例えば、1958年1月より大阪大学大阪大学文学部心理学研究室が餌付けを開始した岡山県真庭市(旧真庭郡勝山町)の勝山ニホンザル集団と呼ばれるグループの場合には、2017年9月現在148個体のニホンザルが存在し、全ての個体に名前をつけた上でデータ収集を行なっています。もし、このような動物の個体の追跡を自動化できれば研究者は大規模なデータを用いた社会集団全体の解析が可能となります。

解決方法

2019年3月18日、大阪大学と岐阜大学の研究グループが動画像中からニホンザルの個体を追跡する手法をEthological Method誌で発表しました。この手法はパーティクル(粒子)フィルタとコンボリューショナルニューラルネットワーク(CNN)を組み合わせた手法で、粒子フィルタの計算に必要な、矩形領域に映っているのがニホンザルか否かを決定するための確率をCNNにより計算します。

具体的には、パーティクフルフィルタとして扱う変数をニホンザルの位置と矩形領域の大きさとして、1フレーム前の「ニホンザル領域」に近い複数の領域を現在のニホンザル領域の候補として粒子として生成し、その矩形内の領域のニホンザルの度合い(尤度)を計算して、残す粒子と削除する粒子の選択に用います。この際のニホンザルか否かを表す度合いをCNNに計算させるため、ニホンザルの全身画像であれば1、背景画像やニホンザルの身体の一部のみが映っているであれば0とする学習を行いました。

CCNの学習には、35,214枚のニホンザルの全身画像、28,460枚の背景画像、35,152枚の身体の部分画像を用意して、合計400枚の画像をテスト画像としました(200枚が全身のニホンザル、200枚が背景やニホンザルの身体の一部分)。また、粒子フィルタの粒子数を100として実験しました。

どうなったか

CNNの学習の結果、全身のニホンザルが映っているかどうかを認識する性能として、精度96.5%、再現率96.0%、両者の調和平均であるF尺度で96.2%となりました。また、テスト動画として30本の勝山ニホンザル集団の映像を用意して試したところ、CNNと粒子フィルタと組み合わせた場合の個体追跡の成績としては79±16%の割合で追跡に成功しました。

まとめ

この記事では、野生のニホンザルの個体追跡技術を紹介しました。このような技術が進むことで、野生動物に対して皮膚下カプセルなどを使わない非侵襲的な追跡を行うことができ自然に優しい科学研究が行えることが期待されます。

興味深いのはこの技術の追跡精度が79%であることが示されていることです。この程度の精度が科学研究上十分なのかどうか、論文中では詳しくふれられていませんでした。また、紹介した論文は個体を追跡する手法の提案に止まり、個体の識別には踏み込んでいませんでしたが、プレスリリースによると個体識別と組み合わせる予定であるということです。個体識別はデータの収集などのハードルが想定されますが、どの程度のデータ数で科学研究にとって実用的な性能となるのかが重要なポイントであるように思います。

いずれにしろ、科学研究の自動化は様々な領域で進んでいくと考えられます。近年の動物行動学では、位置情報を収集するGPSにより飛躍的な進歩がもたらされました。AIの活用によってさらに多くの知見が得られることを期待したいです。

参考資料

(森裕紀)