時系列解析のためのリザーバコンピューティングモデルをRaspberry Pi上で実行・学習:QuantumCore社がEdgeCoreを発表

課題

Marvinでは以前、リザーバコンピューティング(Reservoir computing※)のハードウェア実装について紹介しました(リザバー(貯水池)コンピューティングは低消費電力時系列処理AIの救世主か?:ハードウェア技術が相次いで公開)。リザーバコンピューティングは、内部のノード(ニューロン)が相互に接続されたリカレントニューラルネットワークの一種で、再帰的な構造の部分では学習を行わない代わりに、学習の実行速度が速く、FPGAなどのハードウェア実装による低消費電力化に向いていると期待されています。

汎用プログラミング言語による実装は難しくないものの、低消費電力なハードウェアに適した実装は市場には出回っておらず、現場での時系列解析のための手軽な商品の登場が待たれています。

解決方法

株式会社QuantumCore(代表取締役:秋吉信吾)が、低価格・低消費電力なPC製品であるRaspberry Pi(ラズベリーパイ)の上で実用的に動作する「コンパクト化」されたリザーバコンピューティング実装「EdgeCore」を開発したと発表しました。ラズベリーパイは手のひらに乗るコンパクトな回路上にパソコンの機能を実装し、ディスプレイやキーボード・マウスなどの入出力機器を外せば、小さなIoT機器として動作することができます。

どうなったか

同社は、自然言語やロボット制御を含む時系列処理によく使われるLSTM(Long Short Term Memory)モデルに比較して少量のデータでも十分な学習が可能であり、時系列データの異常検知にも有効であると主張しています。

まとめ

今回は、QuantumCore社が発表したコンパクト化リザーバコンピューティング技術「EdgeCore」を紹介しました。

同社の発表には、具体的な手法は発表に盛り込まれていませんが、モデルを「コンパクト化」したとしています。近年の深層学習モデルでは、結合重みのビット数を削減しても性能が極端に低下しないことが示されています。また、リザーバコンピューティングではノードの出力を0-1の2値としてスパイキングニューラルネットワークのような動作をさせることでも、一定の性能が出せることが示されており、コンパクト化の工夫は色々な形があります。

プレスリリースには、リザーバコンピューティングに重要な要素の1つを「ダイナミクス(ノイズソース)」があるとしていますが、実際には入力の時系列から十分に豊富、かつ再現性のある時系列パターンを多数生成する必要があり、これを行う再帰結合型ニューラルネットワーク(リザーバ:溜め池)が鍵を握ります。このリザーバ層の設計が不十分ならば、十分なパターンが内部で生成されず複雑なパターンから予測をしたり、認識をしたりといった機能が発揮できません。QuantumCore社が特許進行中としている技術がその点を解決しているとしたら、非常に興味深い取り組みです。

非常に期待できる技術ではありますが、今回の発表には、発売の予定などに関する情報は発表には盛り込まれていませんでした。今後も現場で動作する人工知能システムの発表が相次ぐと考えられます。使いやすく安価なシステムが市場に出回れば、社会全体に影響を与えるのは間違いありません。この技術を含めて、現場で使える人工知能技術が早期に社会実装されることが期待されます。

参考資料

※Reservoir computing:溜め池(貯水池)計算の意味。リザボアコンピューティング、リザーバーコンピューティング、リザバーコンピューティングとも。本記事ではプレスリリースに合わせてリザーバコンピューティングと表記しました。

(森裕紀)