AIのサポートで営業チャンスを逃さない:Chorus.aiによる商談会話分析

課題

自社製品の取引や投資者からの資金調達などの商談場面において、相手の興味度合いや会話内容を把握し効果的な発話をすることは商談の成功率を向上させるうえで需要な技術となります。しかしながら、有識者が営業担当者の商談に参加して常に指導を行うことは指導者にとって大きな負担になる一方で、営業担当者が自ら商談技術を獲得するためには非常に多くの商談を経験する必要があります。新人営業担当者の指導と商談の成功率を両立させるためにはこれまでの商談ノウハウを分析し、効果的に提示することが重要です。
このような課題に対して、アメリカのベンチャー企業であるChorusはオンライン上での会議音声を解析することでリアルタイムに発話者と発話内容を推定するとともに、その情報を分析することで商談に対して重要な情報を可視化するシステムChorus.aiを提供しています。

解決方法

Chorus.aiはZoomやWebExなどのWeb会議システムを利用して行われるオンライン商談を対象としています。まず商談中の各発話者の音声を正確に捉えるために、音源分離や発話区間推定などの音源解析手法を開発しました。この手法ではディープラーニング技術を利用することで、各営業担当者の音声情報から個人を分離可能な「音声指紋」と呼ばれる特徴量を抽出しています。各個人の音声指紋の特徴量が重複しないように学習を行うことで、発話者推定を可能にするとともに、学習済みの音声指紋からの距離(特徴量の違い)を算出することで未登録の発話者も特定します。これにより商談中の各話者の発話タイミングや割合を推定可能です(詳細はこちらをご確認ください)。
次に話者の音声から発話内容を認識する技術を開発しました。こちらはディープラーニングの中でもリカレントニューラルネットワーク(RNN)と呼ばれる技術を用いて、音声認識に必要な音響モデルと言語モデルを構築しています(音響モデルと言語モデルに関してはこちらこちらをご参照ください)。Chorus.aiの音声認識モデルの特徴は自己学習という手法を採用している点です。これは一定の能力を発揮するまで学習した音声認識モデルに対して、新規に与えられた発話データを自ら認識して文字起こしをし、その中で推定精度の高いもの(ここでは信頼度が99%以上のもの)を学習用データとして追加学習するものでる。また営業内容に関連するウェブサイトにおいてシステムが未学習の単語や語句を収集し、生成した発音の情報から信頼度の高いものも学習データとしてデータセットへ追加しました(詳細はこちらをご確認ください)。
またこれらのモデルの学習には、50万件以上の実際の商談成功会話データが利用されています。

どうなったか

音声認識システムに自己学習技術を採用したことで音声認識の精度が約20%向上しました。またモデルの学習に商談成功会話データセットを利用したことで、一般的な音声認識エンジン(Google VoiceやIBM Watosonなど)と比較して認識性能が約50%向上しました。またChours.aiオリジナルの音声認識システムを構築することは、外部システムの利用によって商談情報が漏洩することを防ぐとともに、リアルタイム性の確保にもつながりました。
これらの技術を統合することで、商談場面での発話者特定から発話時間の分析、発話内容の文書化が可能となりました。例えば複数のステークホルダーに対して商談しているような場面で、各ステークホルダーの参加率や発話率の解析が可能です。またその情報を利用することで単一のステークホルダーとの会話に偏らないように、発話していない参加者に注意を向けることができます。また推定した発話内容から商談成功に重要なキーワードを抽出し、返答内容やタイミングを提示します。これにより、これまでは難しかった商談成功のノウハウを明確にし、営業担当者がマネージャーや外部講師から指導を受けることなく成果を出すことができます。Chorusの発表によると商談のパフォーマンスが30%ほど向上したそうです。
なお,Chorus.aiのデモをこちらから体験することができるようです.

まとめ

商談中の会話を、音源分離と音声認識の技術によって解析することで商談内容の可視化や商談を有利に進める支援、またそのノウハウを提供するChorus.aiについて紹介しました。Chorus.aiを利用することで成功率の高い商談の流れをテンプレート化し、営業担当者の育成を促進することができます。Chorusは新たに3300万ドルの資金を調達しており、今後もシステム開発が進むと考えられます。
ディープラーニング技術を利用して、対話をするシステムや対話相手の状態推定をするシステムは多く存在しますが、商談や会議に着目してそこから重要な情報を抽出、可視化するシステムはまだあまり見かけません。今後は商談以外にも、例えば病院での患者への病状説明や、科学館での展示物説明などの場面でこのような技術が応用できるかもしれません。

参考資料

(堀井隆斗)