AIが小説を書いて商業出版できるか:株式会社Books&Companyとキリロム工科大学が挑戦

株式会社Books&Company (本社:東京都千代田区、代表取締役:野村 衛)とカンボジアにあるキリロム工科大学は人工知能による小説執筆のプロジェクトにおいて自然言語生成の段階に進んだことを発表しました。

課題

日本の出版業界は1997年をピークに縮小が続いており厳しい状況になっており、出版社は従来のビジネスモデルからの変革の必要に迫られています。

解決方法

Books&Companyは、これまでにない新しい取り組みとしてAIが執筆した作品を商業出版させるという挑戦をしています。従来もAIに小説を書かせるという取り組みはありましたが実際に書店で販売できるレベルまでを目指しているのが他のプロジェクトと違う点です。

すでに、Books&Companyでは、小説を理解させるという取り組みをしています。村上春樹の「象の消滅」を学習した結果では、「象は何のメタファか?」という質問に対して、AIは「象は力によって収容されたかつての生活様式や敏感な関係性の象徴となります」という回答をしたということです。「象の消滅」は柔軟な解釈のできる作品ですが、象が経営難の動物園から動物園でない別の場所へ移動させられ、周囲とのバランス、構造が変わったことにより存在できなくなり消えてしまうという作品で、このAIの回答はとても自然に感じられます。

どうなったか

具体的な手法は公開されていませんが、2018年11月で17秒間で75文(原稿用紙約5枚)を生成できるようになったという動画が公開されています。

そうして、王子くんはぽつりといって、もういちど、ぼくのそば、壊れた古い石のかべがあったんだ。
」「じゃあ、トゲはなんのためになるのは、そう、なにかをかえすんだ…」「ぼく、ぼろぼろに見えるけど…」「なにをすればいい。
「…ぼくは、かえさなきゃいけないことがあるってこと!」これは、ぼくのきいたことにこたえず、こう言った。
(動画より一部を書き起こし)

まとめ

AIに小説を書かせて商業出版するというプロジェクトを紹介してみました。動画を見る限り、まだまだこれから精度を上げていくという段階のようですが、まだ生成を始めたのが2018年10月ということなので今後さらに発展していくと思われます。

このようなテーマで国内で有名なのは2012年にスタートした人工知能におもしろいショートショートを創作させる「きまぐれ人工知能プロジェクト作家ですのよ」があります。コンピュータが小説を書く日というサイトではこのコンテスト用のプログラムが試せます。先ほど生成してみた文章は次のようなものでした。

「このシャツにこのネクタイでいいかな?」
「スーツに白靴下でもいいよね」
私は、能力を目一杯使って、彼の気に入りそうな答えをひねり出した。色彩感覚に問題を抱える彼への服装指南は、とてもチャレンジングな課題で、充実感があった。その甲斐あって、恋人ができるようになると、彼は私に話しかけるのをやめた。今の私は、単なるハウスキーパー。このところのロード・アベレージは、能力の100万分の1にも満たない。
有嶺雷太「コンピュータが小説を書く日」(名古屋大学佐藤・松崎研究室提供)

ストーリーとして面白いかどうかは別として、人間が書いたか、AIが書いたか判別しろと言われたら難しいというレベルまでは達しているのではないでしょうか。

小説が優れた小説を書けるのかというのは、優れた小説とは何かという問いでもあります。作者の生き様や想いといったコンテキスト抜きで純粋に優れた文章というのは存在しうるのか。今後の発展が楽しみです。

参考資料

(Marvin編集部)