【論文紹介】自動運転への信頼性を揺るがす心理学的課題と解決へのアプローチ

課題

将来、自動運転によって人々の生活はより安全で効率的になっていくと考えられます。自動運転の技術的課題はまだ残っていますが、多くの企業は2020年~2025年を目処に完全自動運転を実現するとしています。しかし、自動運転の普及には、技術的課題だけでなく、心理学的な課題も多く残っています。

解決方法

カルフォルニア大学アーバイン校のA. Shariff准教授らのグループは、自動運転車普及の最大の障壁は技術的問題ではなく心理的問題だと主張し、2017年、Nature Human behavior誌に発表しました。アメリカ自動車協会(AAA)の調査では、対象となったアメリカ人のうちの78%が自動運転車に乗ることに恐怖を感じ、自動運転車を信頼しているのは19%に留まりました。

自動運転は人々の生死に関わる判断を伴うため、自動運転車の普及のためには信頼性の壁を乗り越えることが不可欠です。本論文では、人々の自動運転への抵抗感の裏にある3つの要素と、それを解決するためのアプローチを挙げています。

どうなったか

以下のような心理的課題が挙げられています。

倫理的ジレンマ

二者択一の危機的な状況に陥った時にどのような判断をするかという問題です。自動運転においてよく話題に上がるトロッコ問題に近いです。本論文では、自車の乗客1人のリスクと、歩行者や他者運転者等のより数の多い人々のリスクがトレードオフの関係にある場合の例を挙げています。この場合、トータルのリスクを最小化する功利的判断か、乗客の安全に重きを置く自己保存的判断かを選択しなければなりません。一市民としては功利的判断が望ましいと思う一方、自動運転車の乗客としては自己保存的判断をしてほしいものです。本論文では、自動運転の設計者が厳格な自己保存的ソリューションを実装するとは考えづらいので、功利的判断に対する購入者の恐怖を解決する必要があるとしています。

消費者の自動運転への恐怖を和らげ、購入を促すアプローチとして、自動運転車を利用することは安全で徳の高いことだというイメージを与えるという方法が挙げられています。事故の総発生数を減少させることが、乗客のリスクを減少させる最も効果的な方法であるということを理解させるのです。また、自動運転車に「安全で、なおかつ交通量や駐車場の混雑を緩和できる」という有徳なイメージがつくことは、消費者の自動運転車購入への強いモチベーションに繋がるとしています。

事故に対する過剰反応

人々は、自動運転車の事故に過剰に反応してしまい、自動運転への不信感を募らせてしまうという問題です。自動運転車の過失による交通事故はしばしば大々的に報道されますが、本論文ではこのような誇張的で鮮烈な報道について、利用可能性ヒューリスティクス(リスク事例を思い浮かべやすいもののリスクを過大評価してしまう心理現象)や感情ヒューリスティクス(鮮明な感情反応を示したものへのリスクを過大評価してしまう心理現象)と結びつき、人々の自動運転への恐怖心を増幅させると言及しています。実際の事態とは不相応なほどの誇大報道によって、人々は、自動運転車のリスクを大げさに捉えてしまうのです。また、人間には誤った判断をしたアルゴリズムへの信頼を急速に失ってしまう傾向(Algorithm Aversion )もあり、これらの心理的反応によって自動運転の受容が妨げられるとしています。

このような心理効果による悪影響を緩和するためには、自動運転の代表者が、一般の人々に不可避の事故への注意喚起をし、自動運転は人間の運転よりも安全であるということを周知させるべきだとしています。また、自動運転の設計者がアルゴリズムの性能向上について効果することや、政治家が自動運転のミスへの人々の過剰な反応を抑え、正しいリスクレベルを教えるといったことが提案されています。

 

判断プロセスの不透明性

自動運転の振る舞いを決定するプロセスが乗客にとって不透明であるという問題です。人間が自動運転車を信頼するためには、その振る舞いを予測・理解できるということが非常に重要だと指摘します。

一方で、自動運転車の判断の全てを透明化することは不可能であるか、可能だとしても不適切だとも述べています。ほとんどの自動運転アルゴリズムは機械学習によって最適な判断システムを構築します。機械学習は、明示的にルールを定義されることなく、与えられたデータの学習から最適解を自己組織化するため、設計者にすらその決定判断プロセスは不透明です。これは、自動運転に限らず、様々な人工知能分野で課題とされていることです。また、人々は、シンプルで最小限のユーザー体験を好む傾向があるため、仮に全ての判断プロセスを知ることができたとしても、車の行動に関する過剰な情報は逆に乗客の不安を増大させる結果になると指摘しています。

以上より、自動運転への信頼や快適性を確立するために最も重要なことは、判断プロセスの完全な透明化ではなく、人々が自動運転車のメンタルモデル(知覚や判断ルールの抽象的表現)を把握するための適度な情報のやりとりであるとしています。研究者は自動運転の振る舞いの予測可能性や信頼性を高めるために最適な情報を模索する必要があり、また自動運転車に乗客だけでなく外部の環境とのコミュニケーションを取らせる必要があるとしています。

まとめ

自動運転普及に対する3つの心理的障壁と、それに対するアプローチを紹介しました。

現在の安全な交通システムは、一世紀以上もの間に培われてきた法や規範と、それに応える技術の賜物です。今後さらに自動運転を始めとした自動車技術は発展していくと考えられますが、それに伴い新たなルールが制定されていくでしょう。Shariff准教授らは、今後の新しいルールは、技術的・法的なアプローチと同程度に、心理学的な知見にも縛られることになると述べています。

参考資料