ベテラン農家のノウハウと自動運転の予測制御技術の融合:植物の状況に沿った栽培指示を出すAI「KIBUN」

課題

日本の農業の現場では、労働力不足や担い手の高齢化が深刻化しています。2015年度の農林業センサスによると、2015年の農業就業人口は209万7千人(5年前に比べて19.5%減少)で、そのうち65歳以上が占める割合は63.5%となりました。農業は栽培方法や方針に暗黙知や経験則が大きく関わるため、新規就農者の参入が難しいということが原因として挙げられます。

解決方法

プラントライフシステムズは、ベテラン農家のノウハウにより農作物の栽培効果を高める農業AI 「KIBUN」を提供しています。ベテラン農家は長年の経験によって、作物の健康状態を五感で感じ取ってきました。「KIBUN」では、こういったノウハウを組み込んだモデルを用いてセンサー情報から農作物の生体状況を予測します。また、自動運転の制御技術開発で培ったモデルベース開発の技術を応用した生育シミュレーションを用いて、高精度な農作物の生育予測を行います。この生体状況と生育予測を組み合わせ、最適な栽培指示を作業者に提供します。

どうなったか

ベテラン農家のノウハウを取り入れた栽培アルゴリズムによる指示に従うことで、農業経験のない人でも高品質な農作物を栽培することができます。また、農業従事者の負担軽減も実現できます。トマト栽培の例では、1日当たりの農作業時間を25%減少できると発表しています。

まとめ

プラントライフシステムズの農業AI「KIBUN」を紹介しました。

ベテラン農家のノウハウを盛り込んだ生体状況予測AIの中身は気になるところです。単純な手法としては、予めベテラン農家の生体判断を健康状態の指数などとして数値化し、これを教師データとした回帰の機械学習を用いるというものが考えられます。

ベテラン農家の知見を組み込んだAIが指示を出してくれるというシステムは、新規就農者だけでなく中堅の農業従事者にとってもありがたいのではないでしょうか。「KIBUN」のようなシステムは、農業の効率アップと就農者増加の助けになると期待できます。

農林水産省も、「AI(アグリ・インフォマティクス)農業」と称し、ベテラン農家の経験や勘に基づく「暗黙知」を「形式知」として共有し、既存の農業従事者や新規参入者の技能向上・習得に活用する取り組みを推進しています。農家のノウハウを知的財産として守りつつ、データとして流通する取引ルールを制定するため、2018年秋を目処に農家や企業の間でデータをやりとりするための指針を作るとしています(参照)。

また、後継者不足の問題は農業に限りません。日本の伝統工芸の職人などにも当てはまるでしょう。熟練者のノウハウを組み込んだAIによる技術・文化の継承というアイデアは、伝統文化の保護にも生かせるのではないでしょうか。

参考資料

(本吉 俊之)