不具合品100%検知も。異常検知モデルの自動構築を行うデータ分析基盤『Impulse』
製造業で欠かせない予知保全や品質改善の取り組みにも、センサーデータやログデータを活用した機械学習の適用が始まっています。しかし、機械学習の導入にはアルゴリズムの選択や、パラメーターの調整などが必要でコストや技術不足の問題などから導入できないこともあるのが現実です。
今回紹介する『Impulse』は異常検知に特化したデータ分析基盤です。『Impulse』はどのように機械学習の導入における課題を解決するのか、開発元のブレインズテクノロジー株式会社プロダクトマネージャー 藤原 和成さんに話を聞きました。
課題
このシステムは、どのような課題を解決するために考えられたものなのでしょうか?
「異常検知と関連する分析技術は、適用範囲が広いため、多くのターゲットを対象としておりますが、現在メインとしているターゲットは製造業となります。
製造業においては、稼動停止を防ぐための設備故障や不具合の検知、製造品質の維持や歩留まり率を向上するための不良品の検出や製造条件の分析など、あらゆる場面で異常検知技術が重要な役割を果たします。
しかしながら、様々な稼動条件で運用している多様な設備や複雑な動作を行う製造品の品質に対しては、従来の単純な閾値ベースでの監視や検査基準では異常を検出することが難しく、状況に応じて設定を調整しなければならなかったり、熟練者の経験に基づく属人的な運用になってしまうという課題があります。
こうした課題を解決するために、機械学習技術を活用して稼動設備や製造品質に対する異常検知・要因分析を実現するデータ分析プラットフォーム『Impulse』を開発しました。」
解決方法
図1. Impulseのシミュレーション・モデル自動選択の概念図
そのような方法に対してどのような解決方法を作られたのでしょうか
「各種センサーや設備から収集された時系列の数値データや音声データ、画像・映像データを機械学習を用いて分析することで、設備の稼動状態や性能をモデル化し、その傾向の変化から異常を検出することを実現しました。
この機械学習システムにより従来のセンサ値などの単純な閾値判定といった方法では検出が困難だった『いつもと違う』状態の変化を異常として検出可能となり、製造設備の予知保全や製造品の不具合検出に適用可能な分析機能を提供することができました。
また、蓄積される新たなデータやユーザのフィードバックを基にモデルを再学習・自動更新することで、監視基準等の設定を都度調整しなくても精度を向上しながら継続的に運用することができます。
これまでは熟練者の暗黙知だった監視や判定基準を、機械学習によって膨大なデータからモデル化し、形式知化することで人に依存することのない高精度な予知保全や品質管理が可能になります。」
熟練者の経験や勘に頼らなくていいだけでなく、さらに自動で学習していってくれるような仕組みになっているのですね。これまでも機械学習を利用した異常検知システムというのはありましたが、『Impulse』はどういった特徴があるのでしょうか?
「はい、こうした機械学習技術を活用したシステムは、適切な機械学習アルゴリズムの選択やハイパーパラメータのチューニングといった分析ノウハウや知見が必要なプロセスを伴うため、利用者のハードルが高いという課題があります。そこで、Impulseではデータの特性を分析するプロセスを備え、機械学習アルゴリズムやパラメータの選択からシミュレーションによる最適な異常判定モデル生成に至るまでの一連の分析プロセスを自動化した『オートモデリング機能(弊社特許技術)』を実装しました。これにより機械学習を知らなくても容易に高精度な異常検知が可能な分析環境を提供することを実現しました。
精度の高い異常検知を実現するためには適切な機械学習アルゴリズムの選定が必要となりますが、このアルゴリズム選定を自動化するために、先ず最初に各データにおける『正規性、周期性、相関、変化点、回帰適合度』といった様々な特性の有無を分析します。これらの特性を前提に、特性の変化によって現れる異常状態を検出するのに適したアルゴリズムを選択することが可能となります。
さらに、実際の現場では学習データとして利用可能な故障や不具合のデータはほとんど残っていないというケースが多く、更には、過去に発生したことのない『未知の異常』にも対応することも求められます。Impulseは、異常の教師データが無くても分析可能な『教師なし学習』に対応し、正常データのみでモデル学習を行うことで様々な異常の検知を実現しています。」
どうなったか
このマッチングシステムを使うと何がどの程度改善されるか教えてください。また今後の開発予定、目標数値などがあれば教えてください
「Impulseを利用することで、設備保全や品質管理の観点で大きな効果が見込めます。設備故障や不具合発生による稼動停止、品質不良の発生によって引き起こされる損失コストの削減効果が期待できます。
過去に発生した設備不具合時のデータによる検証では、通常の運用監視での発覚日よりも”12日も前に”異常を検知し、大規模な設備障害を未然に防ぐことに寄与できることを証明しました。
また別の事例では、現状の検査基準では検出できなかった不具合品を”100%検出可能”とし、製造品質の維持、不具合品の発生・流通を防ぐ効果を果たしています。
多くの企業がPoC(コンセプト検証)に時間がかかり、稼働までに様々な作り込みが発生することに戸惑うと聞きますが、弊社ではこのような悩みを解決できる「実用的な異常検知サービス」としてImpulseを提供しており、上記事例を含め多くの導入・運用実績があります。(弊社HPでの事例紹介ページ:https://www.brains-tech.co.jp/case/)
今後もこうした実績を活かし、より多くの製造業に向けて実用性の高い異常検知・分析機能を提供していきたいと考えています。」
まとめ
異常検知モデルの自動構築を行うデータ分析基盤『Impulse』について話を伺いました。社内に専門家がいなくても導入できるのは心強いですし、特定の事例における不具合品100%検出や、異常値が出る前に異常を検知する、未知の異常を検知するなどの話は機械学習ならではの結果だと感じました。ありがとうございました。
関連情報
「Impulse」に関するお問合わせ先
ブレインズテクノロジー株式会社 担当:河田・安部
TEL : 03-6455-7023
E-mail : info@brains-tech.co.jp
(Marvin編集部)