ドライバーの運転のクセを反映した自動運転システムができるか?:個々人の特性でパーソナライズしたAIを生成する技術”eBRAD”の応用

課題

近年、自動運転研究が活発に行われています。運転は主に「認知」、「判断」、「操作」という3要素に分割され、多くの自動運転技術もこの3ステップのモデルの最適化を用いたものです。この中で車の運転行動・振る舞いを決定するのが「判断」モデルです。
現在一般的な自動運転の判断モデルでは、個々人にとっての「自然な運転」という視点は考慮されていませんでした。決定論的アプローチでは、人が設計したルールに従って行動を決定します。このルールベースの判断では、個々人の運転の違いは考慮していません。一方、機械学習等を用いる確率論的アプローチでは、様々な人の大量の運転データを学習させることによって尤もらしい運転を判断します。様々な人の運転を学習させるため、個々人の運転のクセは均され、平均値的な振る舞いを生成するようになると考えられます。
しかし、ドライバーにとって、自動運転システムの画一的な動きよりも、自分の運転に近い「自然な」運転の方が望ましいのではないでしょうか。

解決方法

イーソル株式会社は、個々人の行動や振る舞いがパーソナライズされたAIを自動生成するAIフレームワーク「eBRAD」(eSOL BehavioR Adaptation engine)を開発中であると発表しました。
eBRADは、人間の行動や振る舞いを表すコンピューティングモデルと、そのタスクに関わるドメイン知識を組み合わせたアプローチです。自動運転システムの場合は、コンピューティングモデルはドライバーモデルとなり、自動車の運転に関わるドメイン知識(例えば、心理学に基づいた運転行動知見など)を組み合わせます。このドメイン知識を利用して、動的ベイジアンネットワーク(DBN)を構築します。DBNは、複数の事象の因果関係とその確率分布から推論を行う手法であるベイジアンネットワークを、時系列的な推論ができるように拡張したものです。

どうなったか

自動運転システムの場合、ドライバーごとの運転のクセを反映し、個々人にとってより自然な自動運転の実現を支援します。また、手動運転時の支援機能(ADAS)においても、ドライバー個人の運転特性に最適された、より快適な支援が実現できます。
このアプローチでは、ネットワーク構造がシステム開発者によって設計されるため、デザインレビューを適応できるという利点もあります。
このeBRADは、自動運転システムのみならず、様々な分野における人間の行動・振る舞いの自動化システムへの適応が可能です。

まとめ

イーソル株式会社のeBRADと、自動運転システムへの適応例について紹介しました。
現在の自動運転研究ではとりわけ「走行の安全性」が重視されているという印象を受けますが、その次のステップでは「中の人の快適性」という視点も重要になってくると考えられます。その点では、eBRADは未来を見据えた技術と言えるのではないでしょうか。
自動運転研究では深層学習を用いるものが多いですが、これには大量の運転データが必要で、単一の個人のデータで行うのは現実的ではありません。個人の運転特性に合わせたパーソナライズを考える場合、比較的少量のデータで性能を出すことができるベイジアンネットワークの方が向いているのかもしれません。
中国や米国に比べ日本ではデータ収集の難度が高く、大量のデータセットをひたすら学習させるという手法で勝っていくのは難しいと考えられます。今回のeBRADのような、比較的少量のデータを活用するアプローチが、日本でのAI研究開発の鍵になっていくのかもしれません。

参考資料

(本吉 俊之)