機械学習によるデータ解析により抗うつ薬が効かない患者群を予測可能なことを発見:広島大学、沖縄科学技術大学院大学、奈良先端科学技術大学院大学のグループの研究成果

課題

現在のうつ病診断はアメリカ精神医学会によるDSM診断で行われますが、患者の臨床症状を担当医が主観的に判断することで行われており、客観的な診断方法は未だに確立していません。また、抗うつ薬治療も試行錯誤で行われ、客観的なデータに基づいた診断・治療選択を行えないことが問題です。

患者に対してどのような薬剤が効いて、何が効かないかをあらかじめ知っていれば、個人に合わせた処方ができ医学的にも医療費としても効率的ですが、難しい課題となっています。

解決方法

そこで、広島大学、沖縄科学技術大学院大学、奈良先端科学技術大学院大学の共同研究チームは機械学習の手法を用いてうつ病患者の脳科学データ等の様々なデータの解析を行い、事前にどのような薬剤に効果があり、何にないか分かるかどうか検討を行いました。

研究では、67人のうつ病患者と67人の健常者、計134名のデータを収集しました。機能的核磁気共鳴画像(fMRI)を用いた脳活動を表す脳画像データ、脳由来神経栄養因子(BDNF)などの血中バイオマーカー候補物質と心理検査や問診結果に基づく臨床評価指標のデータを収集し特徴量として用いました。
これらのデータを、研究チームが提案している、共クラスタリングを拡張した手法であるベイズ多重共クラスタリング、を用いて患者と特徴量のクラスタリングを行いました。

どうなったか

このクラスタリング手法によりラベルなしにグループの推定を行った結果、特徴量の組み合わせは15グループに分類されました。

そのなかでうつ病関連の特徴の割合が最も高かったグループを選択して解析したところ、うつ病患者を3つのグループにクラスタリングでき、そのうちの1つのグループが抗うつ薬である選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の効果が低いということがわかりました。

また、fMRIと幼児期のトラウマ経験(CATS)から、SSIRの効果が低いグループであるかどうかを約80%の精度で予測できることを発見しました。

まとめ

この研究からうつ病のサブタイプがわかり、その一つがSSRIの反応性が低いことが確認されました。
客観的なデータに基づいた適切な診断が可能となるれば、不必要な薬の投与を抑え、適切な治療法を選択することにつながるかもしれません。

今回紹介した内容は英国科学誌「Scientific Reports」に掲載されています。

参考資料

(宮澤和貴)