AIを利用してビジネス展示会を最適化:名古屋の人工知能ベンチャー・キスモが開発した参加者と出展者のマッチングシステムとは?

2018年11月7日(水)から4日間に渡り、1,432社・団体が出展する日本最大級異業種交流展示会「メッセナゴヤ2018」が開催されます。

メッセナゴヤでは、今回から「メッセナゴヤAIマッチング」という事前のアポイントシステムが導入されました。これはAI(人工知能)が参加者に対して最適な出展者を提案し会期中の効率的なビジネス交流を促進をするシステムということです。

このマッチングシステムはどのようなものなのか、開発元の株式会社キスモのWebエンジニア 久保穂高さんに話を聞きました。

課題

質問「このマッチングシステムは、メッセナゴヤのどのような課題を解決するために考えられたものなのでしょうか?」

「メッセナゴヤでは毎年業種と地域を問わずに、1400社以上の出展者様に出展をしていただいております。しかし、開催期間が4日間と限られていることから、現実的には全ての出展者とコミュニケーションを取ることはできません。それに加えて、どのブースを見に行くかを探すときも、1400以上ある会社のリストから気になる出展者を調べて行かなければならないため、商談の設定は主に出展者にとって非常にコストの高い作業となっており、さらに効率的に商談機会を提供できるのではないかと考えていました。

その中でも特に、大企業に比較してネームバリューで劣る中小企業は、商談の設定により高いコストを払うことを余儀無くされており、効率的に商談を増やす仕組みが期待されていました。

そこで、自社または自分にあった出展者を受動的に推薦、提示してもらえるシステムを導入することで、商談相手探しをより円滑に行えるようにすることが、このシステムを開発した目的です。」

解決方法

質問「解決方法に教えてください。どのような仮説のもとに、どういった手法を使いましたか。また難しかったこと、やってみて初めてわかったこと、その他この問題特有の難しさなどがあれば教えてください」

「出展者の立場で考えたとき、自分が商談をしてみたいと思う会社があるとしたら、その会社と近い技術や得意分野を持った会社にも興味があるはずです。また、そうした興味関心を持った会社と様々な要素において似ている出展者をレコメンドすることで、新たな商談が活性化しビジネスイノベーションを起こせるのではないかと考えました。

自社と興味関心の似た会社を見つけ出し、その会社が商談を希望する商談相手からレコメンドをすれば良いレコメンドとなるのではという仮説をたて、協調フィルタリングという手法を導入することにしました。このアルゴリズムのもう一つの特徴は、教師データがない場合でも、データを溜めながら精度を高められる手法であることです。ただし、ユーザーによるデータの蓄積とともに、レコメンドの精度が向上するアルゴリズムなので、サービスのリリース時は精度が期待できません。そこでリリース時にはそれを補完する別のアルゴリズムとの掛け合わせが必要であると考えました。そこで、採用したアルゴリズムが、カテゴリ類似度アルゴリズムです。

カテゴリ類似度アルゴリズムとは、仮説をもとにキスモが独自で開発したアルゴリズムです。このカテゴリには保有技術や加工材料のみならず、提供する付加価値(生産性向上や省力化など)なども含まれています。したがって、例えばセラミックスの軽量化を得意としている企業にライクをすると、非鉄金属やセラミックスなどその他の材料を得意としている企業だけでなく、品目の軽量化を持ち味としている企業もレコメンドされることになります。

これらのアルゴリズムを導入する際にネックになる部分が、そのアルゴリズムの計算時間とその計算資源です。計算時間に関しては、一度の計算に数千人にレコメンドする出展者を計算しなければならないため、計算には10分弱の時間を要してしまいました。しかし、弊社でコードの計算最適化を行ったことで計算速度を半減させることができました。このように、開発した機械学習を実運用に乗せていくことを目指すため、計算時間をコードと向き合うことで極力削減しなければならなかったことが一つの難しい点です。また、計算資源にクラウドサーバーを利用しているのですが、利用にはどうしてもコストがかかってしまいます。費用に見合ったサーバーのスペックと計算状況を天秤にかけ、構成を決定しなければならない点も一つの難しい点です。」

どうなったか

質問「このマッチングシステムを使うと何がどの程度改善されるか教えてください。また今後の開発予定、目標数値などがあれば教えてください」

「メッセナゴヤは11月上旬に開催される予定のため、結果はこれから徐々に分かってきます。しかし、私たちの考える理想のシステムの役割は、商談相手を探す時間を短縮し、より多くの出展者と有益な繋がりを築くものだと考えております。

特にネームバリューだけでは効率的な商談を行えない中小企業を対象に、マッチングシステムを介した商談成立の件数を一件でも多くすることがシステムの評価指標となっております。

今後は、計算時間のさらなる短縮と、ウェブアプリケーションの保守運用を行います。11月の開期中はアクセスが増大し、また計算時間も増えることが予想されています。ですので、アクセス数やデータ数に応じたサーバーのスケールアップや計算状況の変更を行います。また大きな目標として、ビジネスマッチングへの技術活用というテーマでは、利用シーンの拡大を図りつつ、より効率的に精度の高い商談を提案できるよう、今後追加のアルゴリズム開発を行います。」

まとめ

今回は株式会社キスモに展示会でのマッチングシステムについてインタビューをしました。せっかく時間と経費を使って展示会に参加しても、1000以上のブースを訪問することができないのはもちろん、自分たちに必要なブースを探すことだけでも難しいでしょう。ここにマッチングシステムが導入され、参加者の労力を減らし、出展者にネームバリューに関係なく機会を提供するのはとても有意義なことだと感じました。

将来的には単なる関連の高い企業のマッチングだけでなく、参加者が「まさか、この企業とは全く関係なさそうだけど」と思うようなマッチングもされるような人間には難しい発見もしてくれるようになるとさらに面白いですね。今後の運用、発展が楽しみです。

参考資料

(Marvin 編集部)