オプティマインド・松下健氏インタビュー(3/3)なぜ研究だけじゃなく、「起業」が必要だったのか?──ITベンチャーが目指す「現場主義」

これまでのお話

 第1回:「技術が現実社会に実装されていない乖離性を埋めたい」──最適化技術を武器に挑戦する企業・業界を超えた「配送地図」の創造

 第2回:「問題を解く」ことの実社会へのインパクト──「配送計画問題」とはなにか?

松下氏 教授はビジネスに全然興味がなくて「会社やんの?大丈夫?」っていう感じでした。

 

会社設立の経緯について、我々は松下氏にたずねた。株式会社オプティマインドは名古屋大学発のITベンチャー企業であり、研究室のプロジェクトとして法人を立ち上げたのか、それとも学生たちが自発的に起こしたのか──彼の回答は後者であるが、「テクノロジーと社会」の関係をより密にするためには、技術を持つ組織が積極的に社会へとコミットしていく必要がある。松下氏が起こしたのはそうしたアクションだ。指導教官の柳浦教授はオプティマインドの技術顧問を務めている。

 

松下氏 学会発表などを聞くと、問題設定が「研究のための設定」すぎて、パラメーターや制約条件が「そんなん使えないでしょ」というものばっかりでした。「現場で使えます」という割には結果が共通認識だったり「作ったデータでの検証」だったので違和感を覚えました。「本当に現場で使えるのか」という疑問があって、物流会社さんやいろんな製造会社さんをヒアリングしてみたのですが、一番ウケが悪かったの物流会社さんでした。我々の技術が一番使えるのが物流だったのもあり、「配送を徹底的に攻めよう」という想いから始めました。

 

「現場主義」と「テクノロジー」の接点

自分たちでも実際に車を走り、実証実験を何度も行った

 

──インタビュー(ヒアリング)は飛び込みですか?

 

松下氏 そうですね。ただ、会社として行くと相手してもらえませんでした。当時はM1だったということもあり「研究のために教えてください」という体裁で行っていました。

しかし、契約をとろうとすると「会社じゃないとダメだ」と言われたので、あんまりよくない話なんですけれど売り上げ立つ前に、契約を取るために箱だけ作ろうと思って起業しました。結局、最初の1年間は売り上げ立たずに、3年くらい紆余曲折して最近ちょっと良くなってきたという段階です。

 

──売り上げ立たない状況で、最適化エンジンを開発していたということですか?

 

松下氏 最適化エンジンはもともとありました。それを商用に整えることの方が大変でした。1年目は売り上げゼロで、2年目は某大手メーカーの4次下請けみたいなシステム開発をしていて、そこが今から考えればシードの調達になりました。1000万円くらいのシステム開発だったので、それを元手に乗り切りった感じですね。

 

──つまり技術だけあっても仕方がなくて、「社会とどう接続するか」というところで苦戦されていると。

 

松下氏 AIの会社と言いつつ「現場主義」を掲げているので、自分たちで車を借りて実証をしょっちゅうやっています。ドライバーさんに何度も車に乗っていただいてヒアリングすることをむしろ優先的にやっています。

 

──(現場の方のご協力をいただきながら)やってみてわかったことってありますか?

 

松下氏 アルゴリズムは基本的に「距離行列」といって、複数転換のあいだの道路コストをもらってはじめて計算します。しかし、ドライバーさんが欲しいのは「計算してからの見え方」です。極論をいえば「ナビゲーションのようなものをリッチにして欲しい」という要望をよくいただきます。Uターンはしたくない、左付けにしたいなど、開発ではアルゴリズムではなく地図の方で苦労しています。日本は地図データに対して既得権益が強すぎて、そこでの苦労が大きいです。

 

『Loogia』はどうやって使うのか?

──御社が開発した最適化技術を利用しようとしたとき、どういう情報を持ってご相談すると効率的な議論ができますか?

 

松下氏 インプット・アウトプットは必須で、あとは制約条件ですね。どういうデータがあって、何の制約条件があって、どういう結果が欲しいのかがあってはじめて議論ができるので、まずはそのヒアリングをさせていただいています。

例えば生産計画であれば、

・確定した材料の必要な量

・機械のスペック

・従業員さんの作業時間

・欲しいものはなにか(機械を動かすスケジュールや従業員さんのシフトなど)

などです。これらがあってはじめて細かい話に進めます。

 

──無理だった案件もありますか?

 

松下氏 ありますあります(笑)。最近は配送最適化、ラストワンマイルに特化していますと言えるようになってきたからいいんですけど、ちょっと前まで「最適化」といっていたので、「需要予測」「生産計画」「在庫管理」などのお話が多く、断るのが大変でした。アルゴリズムって全然違うじゃないですか。「AI」といえば何でも解けると思ってらっしゃる方も多いので、説明が大変だった時期もあります。

 

──カスタマイズや導入支援などがある製品ですか?

 

松下氏 カスタマイズは大企業でない限り基本的には受けませんが、導入支援は最初は必要だと考えています。クラウドっていうことすらわからない会社さんも多いので、ブックマークから教える必要があります。いずれはWEB上で導入支援書やケーススタディができてくればいいんですけれど、最初の50社くらいはベタにやっていきます。

 

──価格は公表ですか?

 

松下氏 台数と訪問先数でだいぶ変わっちゃうので、一概には言えないですね。だいたい10台くらいだと1台3,500円くらいで、50台100台くらいになってくると1台月1500円〜2000円くらいになってきます。

 

テクノロジーと現場の溝を埋めるために

代表・松下氏の顔画像を「巡回セールスマン問題」として解いた経路

 

いわゆる「使える技術」や「便利な道具」は、最先端の研究だけではない。ずっと以前から研究されてきたものでも単に「使われてこなかった」という理由で、実社会に普及していないものは多く、松下氏の問題意識もそこにある。

現場にテクノロジーを導入することのむずかしさについて、我々はこんなことをきいてみた。

 

──運送会社はそもそもIT化されていないっていう話でしたが、そこって結構大変で、アルゴリズムの設計とかシステム開発よりも、IT技術そのもの、それ以前の業務情報の電子化を導入してもらうことを説得することの方が難しいのかなと。

 

松下氏 おっしゃる通りです(笑)。それがあって、ブラウザで管理っていうのに抵抗があって、あえてエクセルやCSVとの連携にしています。顧客管理のシステム導入しているお客様が多いですので、「CSV吐き出しならできる」を妥協点にしてクラウドを設計しています。

 

──効率化の余地って日本全体から見ればめちゃくちゃあるはずなのに、なかなかそういうところまでいけてないですよね。

 

松下氏 そうなんですよね。技術が先行しがちで、現場は現場で固まっちゃって「どっちも橋渡ししたがらない」みたいなのはありますね。

 

いったん慣れてしまったものに、新しいものを導入すると工程が大きく変わってしまうことがある。「将来的には生産性が上がる」とわかっていても、実際に効率化されるまでの「慣らし期間」に開発側と現場の大きな溝があるとうかがえる。そのための導入支援、効率化の実例をどれだけ増やせるかが、普及には不可欠なものになるだろう。

 

最後に、松下氏はこうした取り組みについて「最適化を研究している学生」に知ってほしいと言った。

 

松下氏 人工知能のなかでもデータ解析とかニューラルネットワークやマシンラーニングが注目されている一方で、「最適化をやってる俺たちって価値あるの?」という学生の声が心配で、「社会に活きるんだよ!」ということを伝えたいです。

(インタビュー:Marvin編集部 文:まちゃひこ)

 

まちゃひこ

文筆家。京都大学大学院工学研究科博士課程で熱工学や統計力学の研究を行う。単位取得中退後、求人広告の代理店に勤務したのち独立。創作プロジェクト「大滝瓶太」を主宰し、2018年第1回阿波しらさぎ文学賞を受賞。同年10月中旬発売の文学ムック「たべるのがおそい Vol.6(書肆侃侃房)」に短編小説を掲載予定。

Twitter:@macha_hiko

ブログ:カプリスのかたちをしたアラベスク

 

松下健

1992年生まれ、岐阜県岐阜市出身。名古屋大学情報文化学部を卒業し、名古屋大学大学院情報学研究科博士前期課程修了、博士後期課程に在籍中。 専門は組合せ最適化。

2015年に合同会社オプティマインドを創業。株式会社オプティマインド代表取締役社長。

オプティマインドでは、経営全般、営業、サービス設計、最適化アルゴリズム設計などを行なう。

株式会社オプティマインド