人工知能により胎児の先天性心疾患の見落としを防ぐ:理化学研究所、富士通、昭和大学の共同研究グループが物体検知技術と異常検知技術により胎児心臓異常を検知するシステムを開発
課題
先天性心疾患とは、生まれつき心房、心室、弁や、血管になにかしらの異常がある病気です。胎児期に早期診断を行い、出生前より治療計画を立てることが必要とされています。
胎児期における診察は超音波検査での観察により行われますが、検査の技術は経験などに依存します。また、医師の減少・都市部への偏在により地域間で受けられる医療レベルにも差が生じています。さらに、胎児の先天性疾患は発症頻度が低く、十分な量の異常データを収集することが困難でした。
これらの問題を解決するために、理化学研究所、富士通、昭和大学の共同研究グループは、人工知能を用いて胎児の心臓異常をリアルタイムに自動検知するシステムを開発しました。
解決方法
正常な心臓の画像は集めやすいのに対して、心疾患など異常を示す画像データは事例が少ないのは本質的な課題です。そのため、正常な画像と異常な画像を医師により分類した教師データを基にしたパターン認識では両者のデータのバランスが悪いために十分な認識精度が出ないことが考えらえます。そこで、研究グループでは「異常性」を正常性からの逸脱として定義する異常検知技術を用いてこの課題を解決しました。異常検知技術は教師なし学習の応用で、Marvinでも紹介した工場での故障予測(設備データの異常検出による故障検知事例)など、異常を示すデータが収集しづらい場合に採用されます。
また、異常性を計算する前に心臓画像を切り出しておく必要があるため、物体の検知を行います。この物体検知システムと異常性判別システムは、グループが収集したデータに基づいて深層学習(コンボリューショナル・ニューラルネットワークが代表的)により構築します。
まずはじめに、診断精度の高い正常胎児心臓の超音波検査画像2,000枚を収集しました。教師データ画像に映る胎児の心臓および周辺臓器の各部位に対して、種類と位置のアノテーションを行い、このデータを教師データとして物体検知システムの学習を行い、人に近い精度で特定の部位を判定することが可能となりました。この物体検知技術により、認識した結果と正常な心臓の部位と位置を比較することによりノイズが入り込んだ画像であっても異常検知を行うことが可能です。さらに物体検知の学習では正常な胎児のデータのみで学習を行うため、異常データの収集を行わずにロバストな検知が可能です。具体的には、以下の手順により異常検知をおこないます。
- 超音波プローグが当てられてる位置を推定することで、映るべき心臓の部位を提示する。
- 学習した物体検知技術により、実際に映っている心臓の部位を検知する。
- 1で提示した部位と2で検知した部位を比較し、相違がある場合に異常と判断する。
どうなったか
詳細な精度などは示されていませんが、研究グループは開発したシステムによりリアルタイムでの異常検知が可能になったと報告しました。また、システムが認識した結果を操作画面にリアルタイムで表示する胎児心臓超音波スクリーニングシステムを構築しました。これにより、医師はシステムが各部位をどの程度の確信度をもって検知しているかを見ることが可能になります。
各部位について確信度の累積・時間経過をまとめて一覧表示するシステムも開発しました。これにより。静止画のみでなく動画全体で検出具合を確認することができるようになり、確認時間を大幅に削減できました。また、どの部位が異常判定に影響したのかを把握することができるため、診断を行う際に有用な情報となります。
まとめ
今回開発したシステムを用いることで、早急に治療が必要な重篤かつ複雑な先天性心疾患患者の見落としを防ぐことが期待できます。今後は昭和大学病院の産婦人科で実証実験を進め、さらに大量の画像を取得・学習を行い認識向上を図るとしています。
今回紹介したように、症例の少ないケースでもロバストに異常検知を行う技術は重要です。また、人工知能が認識した結果をわかりやすく医師に提示することも、システムの精度を向上させること同様に重要でしょう。