オプティマインド・松下健氏インタビュー(1/3)「技術が現実社会に実装されていない乖離性を埋めたい」──最適化技術を武器に挑戦する企業・業界を超えた「配送地図」の創造

松下氏インタビュー

 第2回:「問題を解く」ことの実社会へのインパクト──「配送計画問題」とはなにか?

 第3回:なぜ研究だけじゃなく、「起業」が必要だったのか?──ITベンチャーが目指す「現場主義」

 

松下氏 我々はもともと技術先行型ではあるので、『解決したい課題があります』と『我々が持っている技術があります』というときに、その乖離がすごくあるのが今の日本だと思ってます。技術研究は進んでいる一方で現実社会に実装されていないという乖離性を埋めたいっていうのが我々のモチベーションですね。

 

松下氏は我々にまずこう語った。

名古屋大学大学院情報研究科で組合せ最適化技術の研究を行いながら、株式会社オプティマインドの社長を務めている彼は「目に見える実際的な問題から学問を始めるタイプ」だという。

転機となったのは、学部1年生の時にオペレーションズリサーチや経営工学と出会ったこと。「片道切符で全国どこまで回れるか」や「鉄板1枚に自動車部品をどう割り当てればゴミが少ないか」というプラクティカルな性質を持った問題が数学的モデルに落とし込めると知ったとき、実学と学問が結びついた。このとき授業を担当していた教授が今の研究室のボスであり、会社の技術顧問でもある。

 

松下氏 はじめて「世の中のためになる学問に出会った」という感動があったので、「4年生になったら絶対にこの研究室に入ってやる!」と思って勉強して入りました。入って、先生や先輩の学会発表などを聞くと、問題設定が「研究のための設定」すぎて、パラメーターや制約条件が「そんなん使えないでしょ」というものばっかりで、「現場で使えます」という割には結果が共通認識だったり「作ったデータでの検証」だったので違和感を覚えました。

 

研究をはじめたなかで芽生えたそうした葛藤のなか、松下氏は「本当に現場で使えるのか」という問題意識を抱き、企業へのヒアリング調査を開始した。

 

松下氏 物流会社さんやいろんな製造会社さんをヒアリングしてみたのですが、一番ウケが悪かったの物流会社さんでした。我々の技術が一番使えるのが物流だったのもあり、「配送を徹底的に攻めよう」という想いから始めました。

 

そうして生まれたのが、組合せ最適化技術を使ったラストワンマイル向けのクラウドの配車・配送計画システム『Loogia』だ。

「手作業」で行われていたルート設計をIT化

オプティマインドが独自に開発した『Loogia』は、配送問題において「どの車両がどの訪問先をどの順に回るか」という配送ルート最適化を行うサービスだ。主に使用している技術は組合せ最適化と機械学習の2つ。コアである組合せ最適化技術の研究は戦争時の補給をいかに最適化するかという問題を歴史的背景に持っている。それが経営工学の分野で「オペレーションズリサーチ」として発展し多くの研究論文が発表され、日常業務においてもシフト制作や生産計画で使用されているとはいえ、活用事例が多いと言い切れないのが現状だ。

松下氏 みなさんご承知のように、ECが増加していて配送ってすごく複雑化しています。この成長率の一方でドライバーさんは10年後には24万人不足すると言われてます。その中で「じゃあ現場はどうなのか」と言うと、未だに人によってルートが作られてます。

 

『Loogia』は、単に物理的距離を最小にするようにルート設計を行っているわけではない。「複数の車両を扱う」、「極力Uターンしないようにする」、「訪問先に対して左付けになるように駐車する」、「この訪問先には特定のドライバーしか行ってはいけない」など、車両・ドライバー・訪問先に対してヘテロジニアスな制約条件を考慮している。

 

『Loogia』によるルート計算例

 

対象顧客は、宅配便や宅食や酒販の他にも自動販売機、LPガス、薬品卸業界などの企業になる。特に「配送ルートが毎月・毎週など短いスパンで変わる」業界との相性が良いと松下氏は言う。

また、実際にこうした業界の企業と提携し、システム導入によりどれほどの時間短縮が図れるかの実証研究も行っている。

 

松下氏 日本郵便さんで一人当たりの最適化をしたところ、ルートを作るのが「手」だったので当然早くなり、実際に配送しても、ルートが綺麗になったおかげで12分削減でき、合計50分削減できました。宅配業界ですと、6分に一個荷物を運べる計算なので、だいたい8個から9個プラスで運べるようになり、1個あたり200円ぐらいなので、1日1便だけで1600~2000円ぐらいの増益、3便だと6000円の費用対効果が明確に現れています。酒販では、7時間かかっていたのを6時間にまで30分削減できました。ルートを最適化したことで30分削減できたというのは大きいんですが、理由は(エリアが)広範囲だったことが挙げられます。

会社や業界を超えた「配送地図」をつくる

株式会社オプティマインドのビジョン

 

従来の配送計画アルゴリズムとの大きな違いは、『Loogia』は現場で業務を行うスタッフの情報を蓄積し、次回以降の配送ルート設計に活かしていることだ。過去に浮上した配送計画問題の課題と、その解決のための『Loogia』の機能を松下氏は以下のように説明した。

 

松下氏 今までのシステムはデータを入力して最適化して結果を出して(アウトプットして)終了だったんですけれど、だから計画倒れしていたというのが我々の課題でもあります。だから最適化を出したあとに、手段は問わないんですけれど、ドライバーさんのGPS情報をフィードバックしてもらって、それを統計や機械学習を通して最適化する時に使う地図の更新を行っています。

 

つまり『Loogia』が特に重視しているのは「現場のスタッフの作業感」だ。たとえば、効率よく配送できるベテランドライバーが実際に通ったルートや特定の道路での車両速度などは、重要な知的財産となる。「地図上では通れることになっているのに実際は通れない」、「信号のない裏道を優先する」など実務上暗黙の了解がなされていたルールを発見し、地図情報として組み込んでいくことで、現場の人間の作業感にフィットさせることができる。

 

松下氏 我々の構想として、こうした対応を1社1社作ってもしゃあないなと考えていますので、日本全体、世界で企業を超えて配送地図をみんなで作っていこう!というビジョンがあります。これらの実績を1社1社つくっていくことはもちろん、どの会社さんでもみんなで共有して欲しいとお願いしています。

 

道具は使い込むほど使いやすくなる。

「初めから道があるのではないが、歩く人が多くなると初めて道が出来る(魯迅『故郷』)」という言葉があるように、多くのユーザーにより『Loogia』が活用されることで、まだ世界でも例を見ない「企業や業界を超えた配送地図」が創造されるだろう。


次回は『Loogia』が実際に解いている「配送計画問題」について、より詳しく紹介する。

 

(インタビュー:Marvin編集部 文:まちゃひこ)

 

まちゃひこ

文筆家。京都大学大学院工学研究科博士課程で熱工学や統計力学の研究を行う。単位取得中退後、求人広告の代理店に勤務したのち独立。創作プロジェクト「大滝瓶太」を主宰し、2018年第1回阿波しらさぎ文学賞を受賞。同年10月中旬発売の文学ムック「たべるのがおそい Vol.6(書肆侃侃房)」に短編小説を掲載予定。

Twitter:@macha_hiko

ブログ:カプリスのかたちをしたアラベスク

 

松下健

1992年生まれ、岐阜県岐阜市出身。名古屋大学情報文化学部を卒業し、名古屋大学大学院情報学研究科博士前期課程修了、博士後期課程に在籍中。 専門は組合せ最適化。

2015年に合同会社オプティマインドを創業。株式会社オプティマインド代表取締役社長。

オプティマインドでは、経営全般、営業、サービス設計、最適化アルゴリズム設計などを行なう。

株式会社オプティマインド