人工知能が小説執筆:AIによる小説作品の商業出版を目指す取り組みが始まる
課題
近年、人工知能技術をを創造的な分野に応用しようという取り組みが広がっています。そのような人工知能技術を用いた創作活動の研究の一つとして、AIによる小説執筆の研究への取り組みが始まっています。しかし、実際に商業出版ができるという段階には未だ至っていません。
また一方で、出版業界は近年右肩下がりの傾向にあり、新しい書き手が育っていく環境も悪化していると言われています。AIによる小説執筆が、既存の書き手や小説表現、作品世界に新たな刺激を与えるとともに、新たな書き手への刺激にもなることが期待されています。
解決方法
電子出版ベンチャーの株式会社Books&Companyが、カンボジアのキリロム工科大学と提携し、AIによる小説執筆を目指すプロジェクトに取り組んでいます。このプロジェクトは単なる研究にとどまらず、AIが執筆した作品を実際に商業出版させることが目的となっています。
同社は、AIが小説を生成するプロセスを2段階に分けています。第一段階はAIが小説の自然言語を理解することであり、第二段階が実際に小説を執筆すること、すなわち自然言語の生成を行う段階としています。
具体的には、まず第一段階として、教師データとなる著名作家の作品、ウェブや辞書データから収集した知識基盤などを学習させ、学習が適切かどうか、AIに質問を繰り返し、修正ループを回すことによって、テキストデータの解釈につなげます。
テキストデータの分析・解釈が可能になったのち、第二段階として、物語の構築のための構造化データを与え、そのデータをAIが分析してテキストデータを生成し、生成された小説が「作品」のクオリティに達するまで修正ループを回します。最終的に作品と認められたのちには、人為的校正をかけ、電子書籍や紙書籍として出版するというプロセスになっています。
どうなったか
同社は、第一段階が終了したと発表しています。そこで、短編小説のテキストをAIに学習させ、その理解度の検証を行っています。事実や解釈を問う質問を合計59用意し、小説のテキストを学習したAIに与えたところ、質問に対する正答率が80%という結果が得られたとしています。
今後、第二段階に進み、文章の生成と最終的な作品出版を目指すと発表しています。
まとめ
人工知能技術を活用した創作活動の研究は、小説から音楽まで広がりを見せています。
小説について、AIによる小説執筆の研究では、今回紹介したものの他に「きまぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ」が知られています。ここでは、登場人物の設定や話の筋、文章の「部品」に相当するものを人間が用意し、AIがそれをもとに小説を自動的に生成する形となっています。「人間以外(人工知能等)の応募作品も受付けます」としている星新一賞において、このプロジェクトによる作品が一次審査を通過したとの報告もされています。
創造的な分野への人工知能技術の応用は、今後もますます盛んになっていくでしょう。新しい表現や業界への新風へとつながることが期待されます。
参考資料
当社はキリロム工科大学(KIT)と提携し、 AI(人工知能)を利活用した小説執筆事業を開始しました。 [Books&Company]
AI執筆事業、第2フェーズへ [Books&Company]
きまぐれ人工知能プロジェクト作家ですのよ
第6回 日経「星新一賞」公式ウェブサイト
人工知能創作小説、一部が「星新一賞」1次審査通過 [日本経済新聞]
Googleによる詞からメロディを自動生成する作曲技術の出願特許が公開 [Marvin]