監視カメラからの画像により駅ホームからの転落を自動検知:パナソニック と東急電鉄が「転落検知支援システム」を運用開始

課題

乗客の駅ホームからの転落は全国の鉄道の大きな課題で、これまでも駅員の目視による監視、ホーム非常ボタンやホームドア、転落防止柵の導入など対策がされてきました。しかし、本質安全(乗客がホームに絶対に入れない構造)を目指したホームドアの設置はコストが高く、元々あるプラットフォームの構造上(線路からの退避場所の確保が必要)、荷重が耐えられず設置が困難であるなど、機能安全(機能の追加による危険の低減)を何重にも設定して乗客の安全を守る必要があります。

中でも、いつどこで、どのような人が転落したのかについての情報を、たとえ駅員や他の乗客が見ていなくても、いち早く知ることは大切です。

以上の課題を解決するため、東京急行電鉄株式会社(以下、東急電鉄)はパナソニック と共同で「転落検知支援システム」を構築し、手始めに一箇所で実運用を開始し ました。

 

解決方法

画像から特定の物体を検出する課題は特定物体検出、より一般的な物体を検出する課題を一般物体検出と呼びます。非常に基本的な画像検出手法としてはパターンマッチングがありますが、非定形で体型や服装、姿勢などが変化する人などを検出する際には不適切であるため近年様々な手法が検討されてきました。たとえば、SIFTやHoGなどの画像記述子(局所画像特徴)を用いる手法やR-CNNやFast R-CNN、YOLO(You Only Look Once)といったニューラルネットワークベースの手法です。本件でどのような手法が使用されているかは不明ですが、近年の手法による検出の精度と速度の向上が寄与していることは間違いありません。

監視カメラからの画像により、転落した人や転落の可能性のある人物が検出されたら、いち早く駅務室や駅員に知らせることが大切です。また、どのような理由で転落しそうなのかをすることは、その後の対応に重要なため理由も分かれば非常に有用になります。

 

どうなったか

東急電鉄はパナソニック と共同で転落者や転落に繋がる可能性のある人物を検出するシステムの実証実験を2017年11月から鷲沼駅で実証実験を行なっており、様々な状況で適切な検出が行われていることから、実運用を開始したと発表しました。実際のシステムは8月8日(水)から田園都市線鷺沼駅上りホームに設置されています。

このシステムにより転落者やその可能性が検出されると、パトライトによりアラーム出し係員に通報しますが、その際には自動的に何を検知したのかを画像により確認することができます。

データの管理は東急電鉄、画像解析技術の提供はパナソニック という役割分担がはっきりしているため、監視カメラ画像が東急電鉄の外部に出ることはないという運用になっているようです。

まとめ

監視カメラからの映像を人が監視し続けることは、監視員の注意力の観点からも、人員のコストの問題からも多くのプラットホームを同時に監視し続ける実用的な運用を行うことは事実上不可能でした。今回、東急電鉄が導入した監視システムは固定された監視カメラからの転落者という特定の状況を想定した上での自動検出システムであり、実際の対応は係員が行うという運用です。実際には誤検出であった場合にも影響の範囲が限られるという点で、既存の監視カメラや非常ボタンの運用と異なることはないようです。誤検出には、実際には転落者がいたのに検出できなかった場合(False Negative)や転落者やその可能性がないのに検出してしまう(False Positive)があり、前者が致命的になりますが、後者もいちいち係員が対応しなければならないためコスト面での問題になります。実際の運用でどの程度の誤検出率が現れ、許容されるのかについては実運用を続ける上で、重要な要素になります。

また、東急電鉄は同時に東横線・田園都市線・大井町線全64駅のホームドアの設置を進めているということで、二重三重の安全を目指した取り組みを行なっており、転落者の検出システムも万能ではなく乗客の安全を守る一つの手段と考えていることがわかります。

監視カメラからの自動検出システムは、特定の人物や特定の行動を探し出すために有用で、これから多くの場所で導入が進められると考えられます。鉄道関係であれば、痴漢の自動検出は難しい課題ですが、関心を集めています。今後どのような場所や目的で監視カメラによる自動検出が活用されるか注目ですが、プライバシーの観点がどのように扱われているかについても注視する必要がありそうです。

参考資料

駅構内カメラを活用した「転落検知支援システム」の運用開始 ~パナソニックの画像解析技術を応用し、人物自動検出によりホーム上での事故軽減を図ります~ [東京急行電鉄株式会社 pdf]
踏切・ホーム・車両の安全対策 [JR西日本]
ホーム転落防止の“救世主”となるか ネットで話題の「昇降式ホーム柵」…多様化する列車に対応できる優れもの
Deep Learningによる一般物体検出アルゴリズムの紹介[ABEJA Arts Blog]
R-CNNの原理とここ数年の流れ [SlideShare]
「ホームから人が転落」駅のカメラで検知、駅員に通知 東急で運用開始、パナの技術活用
3日で作る高速特定物体認識システム (1) 物体認識とは[人工知能に関する断創録 Hatena blog]

(森裕紀)