保育園と子供の最適割り当てシステムを富士通が開発:埼玉での実証実験で30人50時間が数秒に

課題

保護者にとって子供をどの保育所に入れるかは死活問題です。住居や職場に近いだけでなく、きょうだいを同じ保育所に行かせたいという希望もあり、できるだけ多くの希望を叶えようとする行政としては頭の痛い問題です。

毎日新聞FUJITSU JOURNALによると、約300ある保育所があるさいたま市では、2017年4月からの入所希望者として約8千人の応募があり、その割り当てのため一月に約30人の職員が休日の終日、平日を閉庁後に集まって作業しても、合計約50時間をかけなければならなかったということです。

このような作業が自動化されれば、職員の疲弊を防げますし、余った時間できめ細かい行政サービスのために時間を使うことが可能です。

解決方法

このような問題はマッチング問題と呼ばれます。マッチング理論は、二つのグループの要素同士を一対一、一対多、あるいは多対多に、その「良し悪し」を考慮した上で対応させるという数学的問題です。応用範囲の広い理論で、主に(囚人のジレンマで有名な)ゲーム理論の枠組みで、経済学や計算機科学の分野で扱われてきました。

この問題では、保育所から住居や職場までの距離、保育所の定員、すでに入所しているきょうだいの有無など複数の要求を同時に解く必要があります。しかし、歴史的には、保育園の割り当て問題は、1962年に安定マッチング(結婚)問題のアルゴリズムを提案したGaleとShapleyが当初から念頭においていた学生と大学の最適マッチングを行う学校割り当て問題と同じ枠組みです。つまり、昨今の人工知能ブームとは別に、古くからの成果を生かして解いていく問題というわけです。

どうなったか

富士通は研究者が行政の現場へ通ってニーズを収集した上でアルゴリズムを開発することにより、保育園へのマッチング問題を解決するシステムの開発に成功しました。

このシステムを用いて、さいたま市において匿名化されたデータを用いて実証実験を行い、30人の職員が50時間かけて行っていた業務が数秒で終了し、その品質が人手による割り当てに劣らないことを確認しました。

富士通はこの成果を自治体向け保育業務支援システム「MICJET MISALIO(ミックジェット・ミサリオ)子育てソリューション」のオプションとして製品化しました。また、マッチング問題は幅広い応用を持つため、富士通の人工知能ソリューションである「FUJITSU Human Centric AI Zinrai(ジンライ)」の1つの機能として、保育所入所選考業務、組織内の人材配置、作業員の仕事へのスケジューリングなど、様々なマッチングへの適用を目指すとのことです。

まとめ

このニュースは、データが電子化されていることを前提として「数秒で解けた」ということですが、まだまだ各種行政の手続きは紙ベースで行われることが多く、紙から電子データへの書き写しなどを含めた全体の仕事を考えると数秒とは行かない場合が多いのではないでしょうか。このような自動化システムにとってのボトルネックはいつも人間です。行政手続きを最初から電子化することは効率化にとっても急務となるでしょう。

マッチング問題の数理的側面に興味を持った場合は「今日から使える!組合せ最適化 離散問題ガイドブック」などの書籍を参考にすると良いでしょう。この書籍には詳細なアルゴリズムの記述は他書に譲っているものの、最大マッチング問題、重みマッチング問題、安定マッチング問題についての概説が簡潔にされており、保育園のマッチング問題もこれらの問題の応用となります。

参考資料

マッチング理論に関する理論と歴史、関わった人物について参照するのに良い資料です。
マッチング理論の古典的手法で一対一のマッチング問題(安定結婚問題)のためのGale-Shapleyアルゴリズムに関する解説。
(森裕紀)