製造業での深層学習活用事例:日立製作所が鋼板製造における熟練工の技能を学習するシステムを開発

課題

鋼板の製造において、鋼板の両端や中央部が波打つ形状があり、こうした形状を修正するために手動作操作による細かな調整を行う必要があります。しかし、オペレーターの熟練度により鋼板の形状にばらつきが出るなどの課題がありました。また、形状のばらつきにより、製造した製品の中に含まれる良品の割合である歩留まりの低下、鋼板の破断、装置の破損などを引き起こすという問題もありました。

この課題を解決するために株式会社日立製作所(以下、日立)は、鋼板を製造する冷間圧延機において、人工知能を活用したリアルタイムな制御を実現する技術を開発しました。

解決方法

日立がこれまでに蓄積した膨大なデータを用いて、オペレーターによる手動操作と、鋼板の形状実績の関係性をディープラーニングにより学習させました。学習したネットワークを用いて最適な制御動作を導出し、冷間圧延機の制御へリアルタイムに適応しました。これにより熟練工の冷間圧延機の操作ノウハウを学習します。
また、日立が培ってきた制御技術のノウハウを活用し、制御結果をディープラーニングの学習にフィードバックする仕組みや、プラントの異常値の出力を抑制する仕組みを導入しました。

どうなったか

熟練工のノウハウを学習することで、これまでオペレーターが手動操作していた制御を機械に学習させることができ、機械の手動操作が簡略化され操作者の負担を軽減することが可能になりました。
制御技術のノウハウを活用することで、ディープラーニングの学習効率・精度の向上を可能にしました。さらには、不適切な制御入力による鋼板の破損や装置の故障などを防止することも可能にしました。
また、鋼板の形状と制御の関係性を膨大なデータから学習しているため、これまで見いだせなかった新たな制御方法を自動で習得できる可能性があります。

まとめ

日立は、今回紹介した事例以外にも、IoTによる全工程の「見える化」による生産期間の半減や、AIを活用して最適な計画立案を支援するサービスなどの製造業における人工知能の活用を進めているようです。

インダストリー4.0に代表されるように、製造業においてもデータをどのように活かすかは重要な課題となっているでしょう。また、ディープラーニングのような新しい手法のみでなく、制御技術のようなノウハウが蓄積された手法とうまく組み合わせることも今後重要になってくるでしょう。

参考資料

(宮澤和貴)