データ収集が人工知能導入のカギ:東京メトロのトンネル点検スマート化の取り組み

課題

構造物の点検作業は我々の安全を確保するために重要な業務です。しかし作業員が点検項目を確認し、検査用紙にその内容を記入する作業はとてつもない労力を必要とします。ましてや東京都内約195kmの路線の85%がトンネルを占める東京地下鉄株式会社(以降、東京メトロ)にとって、日々の点検業務はとても過酷なものでした。驚くべきことに東京メトロでは約10年前まで、トンネルの1m間隔の検査内容を作業員がすべて紙に記入し、それを事務所内のPCでデータ化するという作業を行っていました。そのため検査員によっては検査内容に「ひび割れ」や「クラック」など表現のばらつきがありデータの解析も多くの工数を必要としました。
東京メトロはこの問題を解決するための取り組みを産業能率大学と協同で行い、データサイエンスアワード2017にて最優秀賞を受賞しました。

解決方法

東京メトロはトンネル点検業務に対する問題を解決するためにタブレット端末(ここではiPad)やクラウドサービスを導入しデータ処理と情報共有の効率化を図りました。具体的にはトンネルの点検箇所をiPadで撮影しタップ操作で該当箇所の状態を選択、サーバーを利用してそのデータを共有しました。
また本業務に関わるプロジェクトメンバーのうち15名ほどの社員が産業能率大学にてデータサイエンスの研修を受け、統計学やデータ解析に関する知識を身に着けることでより効率的に業務改善に取り組みました。

どうなったか

iPadとクラウドサービスの導入により以前は3ヵ月掛かっていた本社のの情報共有を1日に短縮し、検査業務量は5分の1に減少しました。また点検箇所の状態を選択式にし表記のばらつきがなくなったことで、その後のデータ活用が容易になりました。
その結果、収集したデータを数理モデルとベイズ推定に基づいた分析を行うことで、トンネルの健全度を予測・評価することが可能になりました。また、複数の確率変数(ここでは検査によって観測された、ひび割れや漏水などの変状)間の定性的な関係をグラフ構造によって表すベイジアンネットワークを用いて変状観測確率(ひび割れなどが発生する確率)を計算することで、トンネルの中でひび割れなどのリスクが高い箇所を推定し、トンネルの大規模修繕時にその情報を利用できるようになりました。

まとめ

東京メトロと産業能率大学のトンネル点検業務に対する取り組みについて紹介しました。東京メトロは、今後は数理モデルやベイジアンネットワークなどの統計処理に加え、画像処理技術による剥離箇所の自動検出や赤外線データを利用した変状予測を行うようです。先日の記事でお伝えしたFacebook社の取り組みのように、自分たちの業務で直面している問題や、自分たちの業務においてすぐに集められるデータを活用する方法を考えることが新しいビジネスチャンスを生み出すことにつながるかもしれません。
データサイエンスアワードでのこの取り組みに対する報告資料はここで確認できます。

参考資料

(堀井隆斗)