航空宇宙産業にもディープラーニングの波:夜間や悪天候時でも利用可能なレーダー衛星画像の人工知能による自動解析

課題

人工衛星データの解析システム開発を手がける株式会社スペースシフト株式会社Ridge-iと協力の下、AIを活用したレーダー衛星画像の自動解析を行い、高い認識精度を実現しました。
ベンチャー企業の参入により近年急速に進む航空宇宙産業において、打ち上げられる人工衛星の数に比例して増大する衛星データは大きなビジネスチャンスを含んでいます。しかし衛星データの解析はこれまで人間の目による認識が主であり、日々増加する衛星データを人間がすべて解析することができないことが問題になっていました。光学衛星による可視光を用いた衛星写真は、これまでの画像処理技術を用いることで自動解析が可能でしたが、夜間や天候不良時は鮮明な画像を取得することができません。株式会社スペースシフトと株式会社Ridge-iは夜間や雲の上からでも観測可能ですが、専門家でも判読が難しいとされるレーダー衛星による画像を自動解析するAI技術を開発しました。

解決方法

詳しい手法や技術については公表されていませんが、近年研究が盛んにおこなわれているディープラーニング(例えば、畳み込みニューラルネットワーク)を用いることでレーダー衛星画像から興味のある部分(ここではオイルスリック、海面の油膜)を検出するための能力を、教師あり学習によって獲得したと考えられます。
株式会社スペースシフトと株式会社Ridge-iの研究開発は、国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下、産総研)の受託事業として行われており、一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構が開発したオイルスリックマッピングシステムに基づいた海面のオイルスリック(油膜)の教師データセットを用いています。

どうなったか

開発された新方式の性能検証のため、先ほど説明した教師データセット(日本政府のレーダー衛星であるだいち1号のデータ)を活用し、海洋上に現れるオイルスリック(油膜)の自動検出を行いました。オイルスリックは海底油田の発見や、タンカー事故などによる油の流出状況把握、また貨物船や漁船などによる不法な排油の監視に利用されます。これまでは評価経験者による目視によって時間をかけて解析が行われていましたが、今回開発した新方式では8割程度の正解率で瞬時にオイルスリックの場所や大きさをAI技術によって判別することに成功しました。

まとめ

日々増え続ける人工衛星データをAI技術によって自動解析する手法を提案しました。これまでAI技術を用いた可視光画像の自動解析手法は複数提案されておりましたが、今回の研究開発では、夜間や悪天候時でも利用可能なレーダー衛星画像を用いたAI技術を提案しています。本技術はエネルギー開発のほか、漁業など海洋状況把握のために活動が期待できます。また様々な地表面の変化を気象状況や時間に左右されず、途切れることなく観測することが可能になります。地球のおよそ75%は天候不良や夜間のため光学衛星では観測することができませんでした。超小型衛星を活用したレーダー衛星網の登場と本技術により、これまで以上に衛星データの価値が高まることが期待されます。
なお研究開発に利用された教師データセットは、NEDO受託事業「次世代人工知能・ロボット中核技術開発」「次世代人工知能・ロボット中核技術開発」の成果として産総研から近く公開されるようです。

参考文献

スペースシフトとRidge-i、レーダー衛星画像のAIによる自動解析に成功 ~AIを活用して衛星データ利用を促進~ [PR TIMES]

株式会社スペースシフト
株式会社Ridge-i
国立研究開発法人産業技術総合研究所
畳み込みニューラルネットワーク(CNN) [Math Works]

(堀井隆斗)